ぼくはね、先刻もいったようにさ、ボヤッとした時間が欲しいと思ってんだけどね、そういう時間がまあ出
雷蔵 あのな橋蔵クン、大胆といえば、じつはいま大胆なことをやろうとしてるンや・・・。
橋蔵 なに、大胆なことって?
雷蔵 現代劇に出ようと思ってンだけどな、どうやろな?
橋蔵 ほほう、いいなあ、いいなあ雷ちゃんは。(笑)とにかく雷ちゃんってやりたいことっがやれて幸せだよ。
雷蔵 ところが、これが難行してンのや。
橋蔵 その現代劇って何なの?
雷蔵 『金閣寺』。三島由紀夫さんのね。
橋蔵 うーん。それは大作だね。
雷蔵 もう一年前から市川崑監督が計画していてね。ぼくも是非やってみたい。ところがさ、この役というのが大
変なンだ。坊主頭の学生で、それがドモリと来ている。(笑)しかもね、刑事に連行されて汽車からとび降りて
死ぬという役なんだよ。

橋蔵 なるほど、それは大冒険だよ。(笑)
雷蔵 お説のとおりさ。(笑)だからね、ぼくがやりたいといったら喧々ゴウゴウになっちゃってね。目下いまもって大
反対をうけているというわけなんだよ。
橋蔵 そりゃそうだろうね。でも現代劇ってちょっと魅力あるねえ。
雷蔵 そうなんだ。それにね、どうせ出るなら、変ったものをやりたい。ところがさ、二枚目がそんな風変わりな汚
れ役の冒険をおかすのはキケンだ、そういう反対があってね。だけれどぼくは出たいんだよ。
橋蔵 よくわかるなあ、どうもぼくたち時代劇の二枚目は、ひとつの型にはめられちゃうだろう。もうひとつ何かふ
っきりたい、でもなかなか難しい問題だよ、これは・・・。
雷蔵 ぼく考えてみたらね、『七番目の密使』で、ちょうど映画に入ってから四十五本も撮っているんだ。だけど、
なかなか気に入った作品てないものね。
橋蔵 まったく同感だよ。
雷蔵 橋蔵クンの『喧嘩道中』はどうだった・・・?
橋蔵 うん、『喧嘩道中』ね、あれはぼくの好きな写真のひとつだなあ。うん、よかったよかったよ。(笑)
雷蔵 そうだろう、(ふざけて)いいなあ、いいなあ橋蔵クンは・・・(笑)
橋蔵 おっと待った、それはぼくのセリフだよ。(笑)雷ちゃん『忠臣蔵』の判官はよかったよ。
雷蔵 好きというより、なにしろ初めての役でね、渡辺邦男監督が大変に指導のうまい監督さんだろう。夢中でや
ったわ。(笑)
橋蔵 ぼくはそうだなあ、もし現代劇に出るとしたら、大映のほら『春高楼の花の宴』、ああいうものを撮りたいよ。
雷蔵 へエ、橋蔵クンはああいう写真好きなの?
橋蔵 好きというよりね、もし現代劇に出るとしたらああいうものから入りたい、そういうことなんだよ。