ボンボンは仕事がいのち

 雷蔵さん最新の役は「弁天小僧」

大映のホープ市川雷蔵さんのところにある人が寄宿することになって、談たまたま移動証明書の話になったところ、雷蔵さんが「イドウショーメイったなんや」と聞いたという。

ことほどさようにわれらが雷蔵さんは俗事にはうとい。つまり仕事一辺倒なのです。なにしろ撮影にかかる前に台本は必ず三回か四回は読むし、翌日のせりふはきちんと頭にたたきこんでからでないとお寝みにはならないという習慣だそうです。

この仕事の鬼はまた思ったことは何でもポンポン言う性分、そのくせスタッフの連中にはしごく評判がいいようです。「あの人の言うことは毒がないからネ、何を言われても憎めないですよ」というわけなんです。

田坂勝彦監督はこんな雷蔵さんを評して、「カンは良いし、演技の基礎はできてるけど、まだ線が細い。殿様型から脱けだして、もう少しボリュームがほしい。その点、勝新太郎君も、なかなか小器用に芝居をやってるけど、もう一本なんかがほしいね。まア長谷川一夫さんの演技を百点とすると、雷蔵君も勝君も七十五点」となかなかしぶい評価です。しかし仕事に生きる雷蔵さんとしては、すぐに八十点、九十点の点数をもらえるようになることでしょう。

ところで家庭の雷蔵さんはいかがでしょう。マネージャーの森本さんはこう語ります。「ウチのボンは寝坊ですよ。ほっといたら十時間でも寝とる。しかし仕事のことで私が声をかけると一声で起きますね。えッ?食べものの好ききらい?ああ、きらいなものは食べないですよ。しかし出しても決して文句は言わない。とにかくこせこせしてませんね。おしゃれなんかもチョットしたもので、なかなかの衣裳持ちですが、目立たない地味なおしゃれです」というようなわけでした。

宣伝部で熱心に打ち合わせをする市川雷蔵さん