雷蔵 坊主になるなんて、ガキ大将のころがしのばれるね
錦之助 二人ともいいかっこうに育ってご同慶のいたりだよ

 クリクリの丸坊主同士で、あうのは八年ぶりという錦ちゃん親鸞と雷さん安珍、お互いにすっぱりと、カザリケをとり払っての坊主対談!

 

 ことしのツユは男性型だとか。天地がひっくりかえるような、ものすごい豪雨がきたかと思うと、ものの十分もたたないうちに、ウソのようにカーッと照りつける、その変り方のはげしさ。そのたびに、美しい女性的な稜線をみせる洛北の山が、墨絵のように現れたり、消えていったり・・・。

 一日の撮影が終わる夕方の五時。雷蔵さんが、愛車のベンツをかって、嵐山のふもとへやってきたとき、その十分まえまで降っていた雨はカラリあがって、人っ子ひとりいない山麓が、チリを落として、しっとり静まりかえっていました。

豪雨で撮影がストップ

雷蔵 雨、やみよったね。ア、アーッと(大きく背伸びする)静かやねえ。このへんはまるで人がおらん。どうや平凡さん、錦之助君との対談なんかやめにして、静かにブラブラしとった方が、ええと思うがなあ。

−お得意の冗談をとばしているうちに、玉砂利をならして、錦之助さんの車がやってきました。バターンと勢いよくドアを閉めて、

錦之助 オーッス、クソ坊主!(笑)

雷蔵 きよったな、なまぐさ親鸞。(笑)あーあ、せっかく静寂な環境にひたりきっていたのになあ。

錦之助 精神統一が乱れたとでもいうのかい。

雷蔵 そうやがな。

錦之助 そういうことをいうんなら、もう少しゆっくり来ればよかった。

雷蔵 それでも、あわててやってきた、いうのか。

錦之助 そうさ、あわてふためいてきたんだぞ。なにしろ、さっきものすごく降ったろ、ちょうどあのとき、いいところを撮ってたんだ。

雷蔵 いいところって、錦ちゃんがいいところいうと、ろくなシーンやあらへんやろ。(笑)

錦之助 バカいえ。ぼくと月形先生が向かいあって、厳粛な説法を語りあってるところなんだ。

雷蔵 それとさっきの雨とどんな関係があるというんや。(笑)

錦之助 まあ聞けよ。親鸞が求道の苦行の途中で法然にあうくだりなんだ。月形先生が法然になるわけさ。迷いぬいた親鸞が法然と語りあっているうちに、急に悟りをひらく。「ありがとうございます、上人!」とぼくが深々と頭をさげる・・・。

雷蔵 なるほど、なるほど、厳粛なシーンやね。

錦之助 そこんとこへ、ザーッときたんだよ、雨が。

親鸞も雨には勝てぬ・・・

雷蔵 ちょっとまってくれ。雨が降ってきたいうても、ロケやないんやろ。セットやったら、べつに雨の心配でんでもええやないか。

錦之助 それがダメなんだ。あんまりすごい勢いで降ったもんだから、スタジオの屋根がでっかい音たてて、録音さんから待った!(笑)

雷蔵 ああそうか。そんなやりとりやったら、そらあかんわ。

錦之助 撮影所のすぐうらに山陰線が通ってるだろ。ときどき、汽笛の音が入っちゃって、撮影がストップすることはあるけど、雨で中止になったってのは、あまり聞かないよな。(笑)

雷蔵 とくに近代設備をほこる、天下の大東映さんがね。

錦之助 雨ばかりはどうにもならなかったというわけさ。それで、かくは遅参いたした。安珍どの、ゆるされい。(笑)