四方海をめぐらした九州も、関門国道トンネルの世紀の開道を見て、本州から九州迄は全く徒歩で散策出来る様になりました。北九州の福岡地方は良好な海洋性気候に恵まれて居るとは申せ、玄界灘から吹き来る季節風のいたずら、はた又、春眠暁を覚えずの夢も容赦なく持ち去る春の風に、度々悩まされております。しかしながら、観光地と民謡には自他共に追従を許さぬ一等地だと信じております。
 ここ福岡市は黒田五十二万石の城下町で、その昔神功皇后三韓遠征の際、船出された所だといわれ、海をへだてた大陸より文化輸入の門戸として発展を来し、後に奈良、平安の絢爛たる文化を作り上げた土地柄でございます。市の中心を流れる那珂川を境として、東部を商都博多、西部を武家町福岡と相対しております。

 その那珂川河畔に東中洲と呼ばれる繁華街があり、映画館も多数を数え、大体福岡は人口の割に映画館が多く、その比率は日本一だとの事。全く博多っ子は映画好きな様でございます。ここに大映封切館も並んでおりますので、雷蔵さんの映画の時には、再三足を運び、その都度印象的なお声に演技に、心躍らせ、たのしい一時を過ごします。