近松門左衛門の傑作「博多小女郎浪枕」は、旧柳町の遊郭奥田屋を背景にして、遊女小女郎と小町屋惣七、それに海賊毛剃九右衛門の三人を卍巴にからませたご存知世話浄瑠璃の一つで、博多の情緒を不朽の物にしたと申されております。
   博多人形や博多織も、この地方を代表する物の一つで、何時ぞや映画雑誌の中で、雷蔵さんが素敵な献上博多帯を締めていらしたのを記憶しておりますが、どんな色合なのかなあと色々想像しては、博多帯にも一人郷愁と愛情を感じました。
 名所の一つ、菅原道真公を祭神とする太宰府天満宮は市内より二十粁余りの地点で、「東風吹かば・・・」の惜別の一首により、都より主を慕って飛来したと伝えられる「飛梅」を始め、神苑には四季の花々が、百花の美を競い、筑紫の野辺に一段と華やかさを加えます。
 最後に博多の味覚、それは「水たき」「ふぐ」といっても過言ではなく、季節はずれになりましたが、雷蔵さんのお好きなふぐ料理は関門地方が本場でしょう。一度賞味にいらして頂きたい物でございます。 
 思えば二年前、泣く泣く福岡に参り、慣れぬ土地の物、解らぬわびしさを慰めるべく、ふとのぞいた映画館で、雷蔵さんの『編笠権八』を拝見して、とたんに雷蔵さんの上に夢と希望を見出しました。地方ファンの悲しさ、楽しい催物にも自由に参加出来ず、時々ひがみ根性も起こしたり致しますが、後援会に入れて頂いたり、ペンフレンドが出来たりして、微力ながら雷蔵さんを支持する一員になれましたのは、ひとえに福岡へ来たお蔭だと、第二のふるさとになるだろう福岡の平凡な事等、記してみました。