初めての夫婦役、「忠臣蔵」
市川雷子と山本富士夫
山本 まだ拝見してないけれど「弁天小僧」で女装をされたんですって。
雷蔵 ええ、山本さんの前だけど、ボクが女になったら、日本一の美女ですわ。(笑)これからはボクも二枚看板にして、市川雷蔵と市川雷子(笑)で売り出して、山本さんと張り合わにゃならん。(笑)
山本 だったら私も山本富士夫になって、雷蔵さんと美剣士ぶりを争うわよ。この間「人肌孔雀」で若衆姿になった時、鏡をみてホレボレしたくらいよ。こんなボーイ・フレンドがあったらなアと・・・(笑)
雷蔵 恐れ入りました。その気持わかるな。僕が女装したときと全く同じだ。(笑)・・・「弁天小僧」といえば、時代劇で初めて接吻シーンをやりましたよ。青山京子さんと。
山本 時代劇でね・・・珍しいわね。
雷蔵 それが二十三秒間(笑)しかし、映画で見ているのと違って、実際に演技としてやってみると変な気持ですね。
山本 そんなものね。例えば、本当に人を斬ったら、イヤな気持になるにちがいないけれど、映画で人を斬る場合、とても愉快なのと同じことよ。
雷蔵 そういえばこのごろの山本さんは楽しそうに人を斬ってる(笑)
立ち廻りで斬られる役の人に悪くってお饅頭をくばったの・・・
山本 でも、あんな気持のいいことないわ(笑)大の男が、私の刀でバッタバッタ斬られていくんですから・・・。
雷蔵 オール吹替えなしなんだから、すごい。・・・ボクも敵わないね。
山本 立廻りは「鳴門秘帖」の時は、衣笠先生に真剣でやらされたのでドキドキして怖かったけれど、「人肌−」の時は竹光だから、ずいぶんやりよかったわ。でもなんといっても女ですから雷蔵さんみたいに迫力がでないの。普通の立廻りだと刀を相手に当てないで斬るところを、森先生のおっしゃる通り、一人一人、刀を身体に当てて斬りました。
「鳴門秘帖」の時のお二人。長谷川、淡路さんと
雷蔵 そういえば、バッシ、バッシと音がしていましたね。山本さんの立廻りは!(笑)
山本 ええ、ですから、撮影の前に、からみの人たちにあらかじめ、「刀を当てますから、ごめんなさいネ」と一人一人にあやまってまわりました。
雷蔵 ああ、それであの時の立廻りのセットで、おまんじゅうを配っていたんですナ。(笑)
山本 おかげで、私の身体中がキズやアザだらけになって、最後はとうとうまる一日、寝こんじゃった。
雷蔵 弱い剣豪だナ。(笑)
山本 それにあの時、雷蔵さんたらヒドイ。私の持っている懐剣を落させるのに、まるで空手チョップみたいに、力いっぱい私の手を叩くんだもの。後でアザになっちゃったわ。(笑)
雷蔵 いや、それは失礼しました。しかし、あの時の調子では、そうでもしないと、とても刀を離さんやろと(笑)ボクだって必死でしたからね。
山本 (睨んで)意地わる!
雷蔵 ここらで話をかえてっと・・・(笑)ボクは「弁天小僧」で出演五十本になりました。
山本 私はもう六十何本ね・・・。
雷蔵 大先輩、よろしく・・・。
山本 ツライ!(笑)
(明星59年1月号より)