☆ロケはよいものつらいもの

 衣笠さんて細かい方だから、髪の毛一本だって見逃さないんだよ

しのぶ: この間高田さんたちのお蔭で、お休みができて助かったわ。

浩吉: ああ、あれね。落合ロケに松竹と東映さんがぶつかってね。同じ場所なんだけど、僕と嵯峨さんたちは朝八時にいった。

千代之介: 僕や千原さんたちは九時ごろにいったからもう始まっていた。おかげで休み、ありがとうございました。(笑)

浩吉: やっぱり早起きは三文の得だね。

千代之介: あのときは誰だかよくわからあかったけれど、あとで嵯峨さんだとわかったんです。

浩吉: 眼が悪くてもカンでね。(笑)あんな綺麗な人ならきっと嵯峨さんだろうと・・・(笑)

三智子: 光栄だわ。どのくらいまで見えるんですの?

千代之介: 眼鏡とったら、全然ボケて駄目なんです。

三智子: 雷ちゃんもそうね。

雷蔵: だからあんたたちが綺麗に見えるんだ。(笑)

三智子: おおきに。(笑)

浩吉: この人は正直だな。礼をいうたらアベコベだよ。怒らなければいかんよ。(爆笑)

三智子: そういえばそうね。だんだん腹が立ってきたわ。いじわるッ。(爆笑)相手役はいたわるものよ。(笑)

大映の纏物映画「あばれ鳶」で粋な纏持に扮する市川雷蔵さんと

雷蔵さんに惚れる鉄火な芸者を演ずる嵯峨三智子さんが共演しています。

浩吉: このおしどりコンビは喧嘩ばかりしてるね。(笑)ところであんたは『りんどう鴉』から僕とおしどりコンビなんだよ。

三智子: 「りんどう」くらい雨に祟られたロケも少ないですね。

浩吉: まったく、信州の山の中へ十六日間もとじこめられて、音をあげちゃった。

新太郎: マージャンとお酒の好きな人は退屈しなかったっていう話ですが・・・(笑)

浩吉: ところが、僕はお酒全然飲まないし、マージャンも駄目だし・・・

三智子: まじめなのは先生と私だけ、ね。

浩吉: いやに念を押すね。この人は。(笑い)景色はいいんだけどひとたび夜になったら時間をもて余しちゃう。

新太郎: ずっと忙しくて、たまに雨が降ったときはいいね。

浩吉: たしかにいい。

新太郎: それじゃマージャンをやろうということになって。(笑)

浩吉: (笑いながら)話が違うよからだが休めていいっていうのに。

雷蔵: ところが、マージャンやってると、疲れが吹っとんじゃうんですよ。

三智子: ほらね。語るにおちたでしょう。(笑)

浩吉: でも、なかなかいいロケ地ってないね。

千代之介: コンクリートのないところとか、電線のないところとか、時代劇は条件がありますからね。

新太郎: 『花頭巾』で鞆の浦(広島県)にいったり『静と義経』では那須の与一の役なので屋島(香川県)へいったり、ここんとこ海ばかりですが、那須の与一が弓をひきしぼっているうしろの方に、瀬戸内海航路のスマートな舟が入ってきたりしちゃって・・・(笑)

しのぶ: でも海は食べ物が豊富だからいいでしょう?

浩吉: お刺身も新しいしね。信州行きには、会社から命令が出て、何にもないらしいから用意しろというんで、ボストン・バッグいっぱいに缶詰やお菓子をもっていったんです。そうしたら宿屋の売店に沢山売ってるんだ。(笑)

三智子: それが雨ばかりで、毎日缶詰食べて魚釣り。周りは男ばかりで、まるで「男囚とともに」みたい。(笑)弥太さん(北上弥太郎さん)が釣った釣ったって大騒ぎするから見にいったら、メダカみたいなの。

雷蔵: 弥太さんらしいね。

新太郎: とかなんとかいってもロケはたのしいね。

千代之介: 僕は一番遠いのは北海道。『夕日と拳銃』のときでしたが、これも二十日間行って、撮ったのは七時間くらい。すぐ曇っちゃうんですよ。夕日の四時ころになると日が暮れる。ああいうロケはいいですね。(笑)

しのぶ: おちついてお酒がのめたでしょう。(笑)

千代之介: このごろはちょっとやめてるんです。ほんとに。

雷蔵: みんな念を押すね。(笑)

千代之介: 寝るのが好きだから早く寝ちゃう。そのかわり朝は僕が一番早い。四時半になると眼がさめる。

浩吉: 僕がまた早いんだ。そして電気カミソリを使うと、ジーンと物凄い音がするので、監督さんやキャメラマンが、「こんなに早くから起こされてはかなわん」と、かんかんになって怒っている。おもしろかったな。(笑)

新太郎: トランプやったり相撲をとったり・・・

雷蔵: ダイヤモンド・ゲームをしたりね。

三智子: マージャンのこといってもいいわよ。(笑)

千代之介: 辛いこともあるけど、やっぱりロケはたのしいね。