映画製作の過程とはどういうものであろうかと云われても、実際、監督の手に台本がゆだねられて演出にかかり得るまでの過程は各社に依って違ってきます。それは会社の機構に依って、プロデューサー(着想する人)システムと、実質的には名のみのプロデューサーと云う場合とありますが、ここでは雷蔵さんが直接属している大映京都撮影の場合のみに限定して、映画が映画館で公開されるまでの過程をごく判り易く記してみたいと思います。

 先ず撮影は演出台本にもとづいて作られますが、一般には本読みから撮影に到るまでの中間段階が演出台本の基本とされています。

 実際は下に記した図の第三と第四の段階が演出台本の区分でありまして、この部分の計算と演出者の演技とが映画の良否を決定する重要な要素です。

 ではその図の映画製作の第一の段階から御説明致しましょう。

 映画製作の最初に君臨するものは素材と企画であります。素材には、原作と創作の二つがあります。素材にはその取上げ方に二つの場合があります。即ち、素材が先で企画があとになる場合と、企画が先で素材があとになる場合とがありますが、詳しくはもっと区分の仕様がありましょうが、映画は必ずその何れかの出発点より製作の第一歩を踏み出します。即ち、従来撮影所の営業部の註文と、各種団体会社の註文、演技者の註文との場合があります。これ等の註文はシノプシス(梗概)として要領よくまとめられ映画化の理由や、興行価値についての意見をつけ加えて撮影所の所長や、幹部に廻され企画会議にのぼります。

 この様にして提出された素材が採用された場合、それは脚本家の手に移ることになります。これまでの段階を第一の企画の部と考えていただきます。これは企画者の手を経て提出された素材が審議会を経て製作決定をみるまでの過程です。

 さて、図に示す第二の段階に進みます。脚本は、企画の意図、目的、方針をむねとして脚本家(シナリオライター)が筆を下すことになります。

 脚本構成に際して、監督が参加協力する場合と、そうでない場合とありますが、それは企画の段階内に於いて監督が決定している場合もありますが、その協力の程度にも限界があります。さて、脚本が完成し、撮影所最高幹部列席の所長本読みに附されて最後の断が下されます。

 一応、脚本は慎重に討議検討された上、決定を見たからは、直ちにスタッフ(裏方)が編成され、全尺数、撮影日数、完成期日等が決定されます。(註:日本では封切日が既に決定して、それから作品の製作日数が決定されますので、シナリオにかける日数が切り詰められ質の悪いものが出来る事があります)シナリオは撮影所では本と呼んでいる。又シナリオ・ライターはスタッフの中では現場を持たぬ唯一の人間である。これで第二の段階が終ります。