雷ちゃんのスタジオ日記

ぼくのこのごろ

京都にも師走の風が吹きはじめた。街のようすもなんとなくあわただしく、暮の買物などでにぎわっているが、いまの僕にはのんびりと街に出かけて行くひまはない。撮影所は正月作品の追いこみで、どのセットも緊張したフンイキがみなぎっている。

ぼくは、いま二本の正月作品に出演している。「月姫系図」と「遊侠五人男」だ。この二本とも、総天然色、ビスタビジョンで、僕にとってははじめてのワイド映画出演なので大いに頑張ってはいるが・・・。

でも、ちょっと心配なのは、顔にニキビが出来ているので、それが画面にうつってしまうのではないかということだ。

「月姫系図」は角田喜久雄先生原作の伝奇小説映画化で、武田家の財宝を秘めた風・林・火・山の四文字を刻んだ四枚の枝折の秘密をめぐって、正邪入り乱れる波乱万丈のものがたりで、しかも推理的な面白さも含んでいる。

僕の役は桜井進太郎という幕府の隠密で、剣と弓の名人で、精悍な感じの浪人姿に扮している。しかし、ただ剣の名人というだけではなく、銭形平次のように謎ときの名人でもあるのでそれをワイド画面に色で絵ときが出来るようにスタッフの方たちに苦心してもらっている。

それに、この映画では浦路洋子さん、大映初出演の田代百合子さんに好かれるという幸福な男なので、「こいつは春からえんぎが良いわい」と密かに喜んでいる。

「遊侠五人男」は川口松太郎先生原作の映画化で、長谷川一夫先生、黒川(弥太郎)さん、勝(新太郎)さん、梅若(正二)さんに僕というにぎやかな顔合せ。今まで同じ撮影所で働きながら、仕事の都合でなかなかゆっくりと顔合せることがなかっただけに、会えばそれからそれへと話がはずんでくる。

何といっても長谷川先生が中心になるが、いつお会いしても教えられるところが沢山あり、またご一緒にお仕事をしていただきたいと願っている。

ものがたりは、子分の不始末から、欺されたと知りながらも身替りとなって江戸送りとなる親分危急を、四人の男伊達が力を合せて救い出すという仁侠に富んだもので、僕の役は妻木兵三郎という旗本の役人でありながら、昔の仲間だったやくざの友情から、みんなと協力して悪親分をやっつけるという、気っぷの良い男である。

いい気持になって撮影に入ったが、よく脚本を読んでみると、僕だけが恋人役がいないのである。加戸敏監督に「どうして、僕だけ恋人がいないんですか」っていったら、「雷ちゃんは『月姫系図』で二人の女優さんから恋されるということを聞いたから、こちらでは恋人なしでガマンしてもらうことにしたよ」だけど、少し変な理由だな。(明星58年1月号より)