関西人は物見遊山

大宅: カブキの世界より映画の世界の方がいいかもわかりませんね。

雷蔵: 先のことはわからんけども・・・。その通りになるか、カブキ俳優になってしまうかもわからんし、ほんとの映画俳優になってしまうかもわからん。

大宅: 今にカブキが内容的に変ってくれば、あなたのような方が必要になって来るでしょうね。

雷蔵: カブキの世界が、われわれの意思によって、新しい方向へ進んだり、いろんな楽しみのある世界なら、カブキに出ますけどね、いまのところ先輩が大勢いますしね。

大宅: 武智さんは、また何かやりそうだけれども、もう一ぺん武智カブキに出る気はありませんか。

雷蔵: さあ、自分は別ですが、みんな成長しているし、いちおう意見は述べると思いますよ。そうそう、武智さんのいう通り動かないと思います。文楽の人形のように・・・。

大宅: カブキだと大向こうで、どなったりしますね。カブキの世界ではいいことかもしらんが、気分を台なしにすることもあるでしょう。

雷蔵: それは大いに・・・。大阪の舞台ではそれが往々にありますね。

大宅: 東京の、ぞめきというのですか、声をかけるヤツは芝居が好きでやっている。

雷蔵: 声色とか、かけ声をかける会をつくって、いろいろ研究しているわけです。声をかける自分も芝居をしているわけです。ここでかけたらじゃまになるとか、ここでかけたら引きたてるとかとかいうことを研究して、大向こうへ回って“高島屋”“成駒屋”などという。東京の舞台がやりやすいというのはこれですよ。大阪のほうは、半分、一杯まわってる人がいますね。

大宅: 花見にでもいった気持ですね。

雷蔵: 根本的に違うところがありますね。大阪などは物見遊山です。向うも好きで、勝手に好意でほめてるんだけども、それをめちゃくちゃにやられると、芝居をぶちこわす。ほかのお客さんにも悪い。

大宅: 変なぞめき方のためにこわされるというのは大いに考えるべきですね。

 『秘伝月影抄』で殺陣師の宮内氏から
手ほどきをうける市川雷蔵(左)と勝新太郎(右)