映画の世界は実力

大宅: 関西カブキはどうですか。

雷蔵: このごろどうなんでしょうね。ああいうことができると、なかなか表面穏やかなようでも・・・。ほんとうの関西カブキと称するものがないでしょう。東京から来てる人がいるわけですね。父でもそうですが、蓑助(六代目、後に八代目坂東三津五郎75年68歳で急逝)さんにしても富十郎(四代目、60年52歳で巡業先で急死)さんにしても、東京から来て関西カブキに入ったんですから、いろいろ問題があるんでしょうな。

大宅: それにまた、あなた方では言いにくいかもわからんが、松竹や東宝をめぐって、古いしきたりみたいな、いろいろ複雑なものがあるわけですね。

雷蔵: なかなかすかっといきませんね。映画の場合はすかっといっても・・・。

大宅: カブキの世界は近代的な組織になってないんだな。

雷蔵: 映画の場合は、人気がついてくれば、その人にどんどん主役をとらすし、むかしから何十年やってる人でもお客さんが入らなければワキ役に回っていく、いちおう実力の世界になってます。

大宅: その点では、相撲やレスリングに近いわけですね。

雷蔵: カブキには組がありましてね・・・。後援会で借金してお客さんに切符を買ってもらうのですよ。その売上げによって配役が左右される場合があるのです。あの人は何百枚売ってる・・・とか、すくのうては役がつけられんとかね。

大宅: そんなことが今でもあるんですかね。

雷蔵: ボクはあいさつが特にきらいなクチでね。晩、芝居がすむとごひいきさんが来て、ごちそうたべにいったりするけれどもまずいのでね。そういうとこへいくと、ダンナどうもこんばんわ(おじぎする)ごちそうさまでございます、というのですからね。いちおうむかしのしきたりですけど。

大宅: それをあんまりやらないと、いばっているといわれるしね。

雷蔵: そうそう。十時ごろにすんで、そういうとこへ二、三時間いって、帰ってフロに入ったり・・・、朝十一時開幕なら朝九時ごろ起きていかんならん。身体はえらいし・・・。

大宅: ねえさん芸者なんかでいれあげたりするの、ないですか。

雷蔵: そんなのないですね。

苦労した清盛の役

大宅: いろんな贈物もってくるの、いるでしょう。

雷蔵: ええ。

大宅: どういうファンが一番多いんですか。

雷蔵: 一般的ですね、男の方は非常に少ないね。非常にというか、ごくですよ。年賀状が七、八千枚来ましたけどね、その中で男の方は十枚か二十枚ぐらいです。

大宅: そうですか、そんなに少ないですか。ミシンか何か当らなかった?

雷蔵: 去年は五、六千枚来ましたけど切手ばっかり当りました。切手は助かりますよ、返事出すのにね。

大宅: 清盛のときは少しきれいすぎて、町家のぼんぼんみたいなところがあるという悪い批評もあったけれどもね。

雷蔵: カメラマンの宮川さんともいろいろ研究しましたけど、なんぼ衣裳を汚してもうつるときれいになる。(笑声)イーストマン・カラーというのは、すらっときれいにうつるけれども、汚れた感じがなかなか出ないですね。撮影所の廊下の油とほこりをぬりたくってもきれいなんです。

大宅: それは困ったね。(笑声)

 「娯楽よみうり」56年3月2日号より