ある独身男性が求めるもの
『好色一代男』のセットで宣言した結婚の条件


 「・・・本年中には結婚したい」二月六日、市川雷蔵(30)は宣言した。「花柳界や女優ではなく、あたりまえの家庭から花嫁を」という彼の結婚の条件は、話題を呼んでいる。

 七才の夏の夜であった。世之介は、腰元の袖をひいた。「灯を消して」といった。「暗くなりますのに」「そうさ、恋は闇というもの」・・・それが、はじめ。

 それから三千七百四十二人の女と、恋をした。“好色一代男”。・・・井原西鶴が書いた。西暦1682年の秋であった。そして、1961年二月六日。太秦の大映京都撮影所で、クランク・イン・・・。

 監督、増村保造。脚本、白井依志夫。撮影、村井輝雄。・・・雷蔵の世之介をめぐる女たち。若尾文子、中村玉緒、水谷良重、近藤美恵子、阿井美千子、中川弘子、そのほか大勢。

 いま、ぞくぞくと、京都のスタジオに集まっている。六日夜、特急こだまで、中村玉緒が。若尾文子は八日の朝、日航の一番機で・・・。

 スタジオではもっぱら・・・「雷ちゃん、いったい誰を嫁はんにするつもりやろ?」・・・市川雷蔵は、ことし中に結婚する。

 正月三日、母親のらくさん(75)が亡くなった。その翌日。雷蔵は永田雅一社長によばれた。「お前も、いよいよ結婚せなあかん。一家の主婦が必要や」「はい。ボクもそう思います」「今年中にせい。これは社長命令やで。ええな」

 というやりとりがあった、という(永田秀雅専務の話)

 そこで、『好色一代男』。むらがる美女の中から、雷蔵の嫁えらび。といううわさがとんだ。とくに、うわさの人。若尾文子と中村玉緒。そのどちらが、雷蔵の妻の座につくか?「ラブ・シーンの熱烈な方が、すなわち本命や」などという、おもしろ半分の声まで、ささやかれているのだが・・・。