雷蔵さんの4つのポイント

その二、演技

『花の白虎隊』以来、十数本の出演映画のなかで、雷蔵さんはいろいろな役をこなしました。どんな役でもこなせるということが彼のよい点ですが、なかでも得意な役はどんな役でしょうか。

彼の作品を分類しますと、『次男坊鴉』『次男坊判官』『いろは囃子』それに近く封切られる『浅太郎鴉』などの“やくざもの”、『美男剣法』『鬼斬り若様』『踊り子行状記』と最近封切られた『柳生連也斎』などの“美剣士”もの、『千姫』『綱渡見世物侍』『又四郎行状記』などの“殿様”ものの三種類に大きく分けられます。

彼はこの三種類の役のどれもがうまいのです。これは彼の演技の力です。時代劇の俳優のなかには、悲しい時にはこんな顔をすればよいとか、笑う時にはこういう笑い方をすればよいとか、きまりきった型の芝居をしている人もありますが、彼は彼の人物の気持ちを、どうやってあらわしたらいいかと研究していますから、どんな役も演じ分けるのです。

雷蔵さんの演技の生長のあとをたどってみると『幽霊大名』の殿様、『次男坊』ものの遠山金四郎、ひばりちゃんと共演のお夏清十郎などで、着々と成功を重ねていますが、何といっても『新平家物語』での力演をあげなければなりません。彼はこの大作で青年平清盛の役を立派にこなしています。

その後の彼は『又四郎喧嘩旅』で、演技のうまさを示して、これからを期待させていますが、欲をいうと、彼の演技にはまだまだうまみが足りません。雷蔵さんはこれから生長してゆくスタアだからといえばそれまでですが、彼の演技は、料理にたとえれば一応おいしくできていますが、まだ残念ながら一度食べたら忘れられないというほどのおいしさにはなっていないのです。どこか一生懸命すぎて、ゆとりのない感じがするのです。

真面目で熱心な彼のことですから、もう二三本のうちには、ぐんと飛躍して、本当に味のある芝居を見せてくれるでしょうが、そのためにはもっと楽な気分で演技する必要があると思います。(56年3月発行、「平凡スタアグラフ・市川雷蔵集」より)