さん大いにしゃべる

ファン座談会

先刻から思い思いに盛装をこらしたファンの華やかな女性の皆さんが、雷蔵さんの現われるのを今か今かと待ちかまえています。

「うち、なんか胸がドキドキで」「ほんま、うちもや」とヒソヒソと、胸をおさえて紅潮した頬を寄せ合ってささやきを交わしています。

その時、あわただしく階段をかけ登る音がして、元気な雷蔵さんが、姿を現わしました。

雷蔵 遅うなりました。(今日の雷蔵さんは細いチェックのシャツにジャンパーをはおったスポーティーなスタイルです)

☆感めい深い新平家物語☆

司会 さあ、それでは早速はじめましょうか。だいぶお待ちかねのようですから。今日は、全国の雷蔵ファンの代表になったつもりで、遠慮なくお喋りして下さいね。先ず、雷蔵さんの映画で一番印象に残った作品を一つずつ云いましょうか。

横山 (急きこんで)私、新平家です。

司会 ぼくも、雷蔵さんから招待状いただいて観ましたがあれは良い作品でしたね。なにか今までにない雷蔵さんの迫力のある演技に魅せられました。

雷蔵 新平家で、どこが一番いいと思いました?

横山 ラスト・シーンです。お神輿に矢を射るところ。ものすごう良かった。

森田 私も、あのシーンでは感動しちゃった。因習にさからう清盛の雄雄しい感じがとてもよくでてました。

全員 (顔を輝かしてうなずく)

司会 皆さんは新平家は良かったらしいですな。では、新平家以外の作品では?

井上 私は、もちろん新平家も良かったけど「次男坊鴉」も好きです。恋人役の嵯峨さんと一年ぶりに出会うシーンで、階段の上と下でジーッと顔を見合わせるところ、うっとりするほど素敵でした。

田村 私も「次男坊鴉」からファンになったんですけど、アレ二回観ちゃった。

司会 皆さんいいなアと思うと二回観る?(「三回観た」「最高四回」などの声あり)

全員 もち論(笑)

陶山 雷蔵さんは、ご自分の映画でどれが一番お気に入りですか?

司会 そうそう、今度はご本人の意見を聞かなくちゃ。どの作品が自信ありましたかな。

雷蔵 一番楽しく演れて、また一番苦心した結果からいっても、一番良く出来たと思い、他人からもほめられたのは、やはり新平家でしたね。この作品が出来上がった時は感めいが深かった・・・。あとは肩のこらない作品が多くて、これといって自慢できる作品もないけど「次男坊鴉」「綱渡り見世物侍」「又四郎喧嘩旅」などは気楽に演れて面白かった作品ですね。

司会 これからの時代劇の新分野を開く意味で、新平家は野心的な作品でもあったし、この作品に主演する雷蔵さんは世間の注目の的でしたが、これを立派にやりこなしたということは、われわれファンにとって嬉しいことでしたね。ところで、これから、どんな作品で出て欲しいと思う?

松永 「遠山の金さん」のような颯爽としたもの。

陶山 「新平家」につぐような歴史ものにもドシドシ出て欲しいわ・

井上 源義経のような悲劇の英雄(ヒーロー)もいいわ。

田村 私、現代ものにも出演して欲しい。

司会 ずいぶん、いろいろ希望が出ましたが、いかがですか雷蔵さん、ここで現代ものに出て欲しいという希望に対して・・・

雷蔵 この頃、ファンレターなども、そういう声が多いですよ。ぼくとしては、今迄の時代ものに、もっとフレッシュな近代感覚を加えるには、現代ものに出ることも修業にはなると思いますがね。時代物では、衣装や言葉使いにも慣れているが、現代ものに出るとなると、まず、洋服の着こなしや歩き方喋り方まで研究しないと自信がないですな。

松永 私などは、無理に現代ものに出ないで、それよりか、他の人には見られない新しい時代劇の俳優さんなっていただきたいと期待していますいわば映画の清盛のような。

☆ふき替え大活躍☆

司会 どうでしょう。ここらで雷蔵さんから映画のトリックについてお話していただきませんか。

雷蔵 トリックは映画につきもですね。簡単な例をあげれば「ふき替え」なんかもトリックの一つですし・・・

司会 雷蔵さんもふき替え使ってる?

雷蔵 時代ものには危険な撮影が多いので。竹田さん、大林さん、この二人なんかは実に良くぼくに似てますよ。実物の方で「オヤ?どっちがホンモノでどっちがニセモノだ?」と迷っちゃう(笑) それは冗談やけど、殆ど三メートル位寄っても判らない。歩き方までそっくり。 「花の渡り鳥」の時も怪我をして撮影が出来なかったので、あの時の立ち廻りのシーンは全部ふき替ですよ。

全員 ワァ−、インチキ(笑)

司会 そんなに似てる人を探すのも大変でしょうな。

雷蔵 「又四郎-」の時も走って来て、馬の背にポ−ンと飛び乗るところがあったでしょう?アレも走って来るのはぼくで、ポーンと飛び乗る方はふき替だったんですよ。

司会 雷蔵さんは飛び乗れないの?

雷蔵 ウッカリ怪我でもされると撮影中止なので会社がやらせてくれへん。ぼくはやりとうてたまらんけど・・・(笑)

森田 ほんと、大怪我されては私たちファンも心配ですもの。なるべく危ないことはなさらないようにお願いしますわ(笑)

雷蔵 岐阜にロケーションした時のことですが、馬を使いたくても調教された馬がないので、仕方なく荷馬車ひきの馬に乗って撮影した時、裸馬で鞍がつけてなかったために振り落されてしまった。草の上だからよかったけど、とたんに後足でポカッとけられた時は、頭から七色の虹が出ましたよ。(笑)

横山 まあ、痛かったでしょう。

司会 では、いよいよ、雷蔵さんの魅力について語りましょうか。もち論、スクリーンを通じての雷蔵さんの魅力です。

松永 お殿様役がいいわ、衣装がとてもいい。

雷蔵 あれ?衣装ほめてるの?そりゃそうでしょう、馬子にも衣装と云いますからね(とふくれる真似)(笑)

松永 あら、そんな意味ではないんですよ。あのお殿様の衣装がとっても似合うと思うんですの。

雷蔵 じゃ、ぼくを裸にしてどこがよろしい?

井上 声が好きです。ボリュームがあって。それから立ち廻りのところで怒らはったところはものすごう素敵。

雷蔵 それでは、いつも怒っとこか(笑) 今度の「月影抄」も、清盛みたいな、荒々しい役だけど、さいわい、怒ったところがいいそうで安心ですな。

田村 まなざしを移す表情がとてもいいわ。

横山 「いろは囃子」で、寝そべった雷蔵さんが妻楊枝をくわえながら、傍の山根さんに「馬鹿野郎」と云わうところ、とても素敵でした。

司会 おやおや、横山さんも雷蔵さんだったら「馬鹿野郎」と云われそうな顔をしてますよ。(笑) では今度は悪い所もあげて下さい。

森田 あら、そんなこと云やはっても、ファンいうたらいい所ばかり見ちゃうもんですわ。

雷蔵 そうや、悪い所なんてあらへん(笑)

☆火の出るような恋愛を☆

司会 ところで、いつも、美しいご婦人方からワァワァ騒がれる雷蔵さん、一つ現代女性観にについて伺わせて下さい。

雷蔵 ウーン(腕をこまねいて)わからん(笑)

司会 そうおっしゃらずに、では恋愛のご経験は。

雷蔵 ふん。火の出るようなのを一ぺん(皆、ハッと緊張)してみたい(笑) そうしたら人生観も変るやろ思いますよな。残念ながらまだ経験はありません。

司会 撮影所によくファンが見学にみえるでしょう?

雷蔵 ええ。でも、ぼくは仕事中は気を散らしたくないので、撮影所ではあまり話をしないんです。それで気を悪くなさる方もあると思うのですが、裏面の仕事はなるべく隠して、スッカリ完成されたきれいなものを見ていただきたいですね。

司会 ファンもそういった俳優さん個人の性格を理解するファンでありたいですね。 ひいきの引倒しにならないように気をつけましょう。そういうようにいつも誰かに見られる感じで窮屈な時もあるでしょう?

☆つれない恋人☆

雷蔵 ぼくは、そんなこともないです。近眼なのでふだんは眼鏡をかけている故か、ぜんぜん変らないらしいです。 昨日も「月影抄」のアフレコで角さんと会ったんですがこのなりで行ったら判らないんですね。三十分位たってぼくが話かけると、飛び上がって驚いて「まッ!雷蔵さん!?気がつかず失礼しました」(笑) 昨日まで撮影で、好いた惚れたと云ってた相手が、素顔で会うのは初めてとは云え、冷たい恋人やな(笑)

陶山 「新平家」の封切の時、梅田大映の前に立っておられましたね。誰も気がつかないで「雷蔵さんは何処やろ」と楽屋の方ばかり詰めあけKて・・・。

雷蔵 おおいに愉快だったな。この間も、錦ちゃん(中村錦之助)と一緒に東映の赤穂浪士を街の映画館で観たんですが、休憩の時間、マイクで「中村錦之助さん、市川雷蔵さん、おいでになりましたら、正面入口においで下さい」と呼び出されて弱っちゃった。ワァーとばかり観客が総立ちでぼくらを探すんですね。 ぼくも錦ちゃんも前の方の座席に座ってたんで、かえって下を向いてたのでは発見されてしまうと、皆と一緒になってキョロキョロ探すふりをしたんです(笑) もっともマスクはかけていたけど、とうとう発見されずにすんで大助りだった(笑)

司会 それでは、もうそろそろ時間もきたようですが・・・

陶山 もし、歌舞伎の舞台に立たれるようなことがあれば、映画で身につけたものが役に立つと思われます?

雷蔵 本来歌舞伎は変えられないけど、もし舞台に立つ機会があれば、映画の持つリアルなものを舞台にも再現してみたいですね。

田村 お父さまの寿海さんとご一緒にお芝居に出て欲しいわ。

雷蔵 扇雀さんとこの親子のように一方が男で一方が女房役だといいんだけど。うちは二人とも男役だし・・・

司会 それに二人共色男だし(笑)

雷蔵 親子で一人の女を張り合う役でもしましょうか(笑)

司会 それでは、皆さんまだまだ続けたそうな顔つきですが、雷蔵さんのお仕事の関係で、ここで打切としましょう。 雷蔵さん、お忙しいところをどうも有難うございました。

(56年3月発行、「平凡スタアグラフ・市川雷蔵集」より)