◆・・・茶目っ気たっぷり

『花の白虎隊』で同時デビューした勝さんとの確執を言う人もいるが、二人は実 は仲良しでした。ライバル心を燃やしつつお互いを心から認め合い、決して悪口 は言いません。普段の姿も、豪快な勝さんに対し、雷ちゃんは実直と正反対。だ から争いにはならなかったのだと思います。

素顔の雷ちゃんは茶目っ気たっぷり。浴衣にヘコ帯を締めて、ちびた下駄でカラ コロと撮影所を歩く。口もぼおっと開けて無防備なんです。狂四郎のようなニヒ ルな役であっても、休憩時間や一日の撮影が終わるとぱっと素に戻る。役作りに 苦心する姿も周囲には見せません。強烈な個性を貫くというより、役ごとに自由自在に変化する役者のように見えました。

撮影中も、周囲を寄せ付けない雰囲気の人ではありません。『炎上』のロケでの こと。遊郭へ登る場面を千本界わいで撮影したが、学生服姿で出番を待つ 彼の隣で元引き手のおばさんが「雷蔵さんまだかいな」なんて騒いでいる。素顔 と化粧顔が違うので気づかないんです。雷ちゃん自身も「わしはエキストラや」 なんて話を合わせてね。

◆・・・割り勘と気遣い

虚飾を嫌い、京都弁で誰に対してもずけずけ言う。でもみんな、気取りの無い 雷ちゃんが大好きでした。スタッフと麻雀を楽しみ、撮影所前の喫茶店や祇園 石段下の中華料理店は常連で、夏には円山公園でかき氷を食べたり。おごること は簡単だが、割り勘で周囲との垣根を作らない。その代わり猛暑前には扇風機、 浴衣など節目の気遣いは忘れません。私にはよく建築関係の写真集を贈ってくれ ました。そんな時も「これ、わしより善さんが持ってる方がええやろ」と私の ために買ってくれたとは絶対言いません。

晩年は「鏑矢テアトロ」という演劇集団の結成に奔走していました。映画で得た 経験と古巣の舞台に花と咲かせたかったのでしょう。企画力もある彼のこと、健 在なら「映像京都」創設にも参画して、今も私たちと映画製作に意欲を燃やして いたかもしれません。

直腸ガンで入院してからは、親しい仲間にも決して見舞いを許しませんでした。 夭折とシリアスな役のイメージで悲劇的な印象が強い雷ちゃんですが、私は浴衣に下駄ばきの無邪気な表情が今も忘れられないのです。(京都新聞4/25/03より)