“ゴテ雷”の本領 宣伝課 藤本初之助

 三、四年前のことですが、小野通子さんに“ゴテトシ”というニックネームを呈上した人があります。ゴテろは関西弁でとかく御託の多い人間を形容する言葉で、トシは小野さんの本名長谷川季子のトシです。その何処かユーモラスで、しかもズバリと云い表わしたニックネームの名付親が、他ならぬ市川雷蔵その人でした。

 よく「雷ちゃんは毒舌家だ」ということを聞きます。毒舌家にもいろいろあると思いますが、若しそれが他の人が敢えて云い得ない本当のことを、臆面もなく云い得る人という意味なら、正しく彼は毒舌家もいい所だと思います。そして大抵なら、毒舌の被害者(?)となった人は腹を立てるか、感情を害するかするものですが、彼のいわゆる毒舌の場合、奇妙に腹が立たない、何かフワッとして憎めないものがあります。“ゴテトシ”もその一例で、人伝てにそれを聞いた当の小野さんは、もちろん、喜ぶ筈もないでしょうが、ニヤッとした表情だったように憶えています。

 ところで、ひとに「ゴテ云々」と仇名をつけるその御本人も、“ゴテ雷”であり、山川雷蔵であることも、これは自他ともに許すものでしょう。

 とかく、ゴテるスターというものは、撮影所の宣伝部としては、まことに困る存在です。その上、彼のゴテ方というのは、実に理路整然(たまにそうでない事もありますが)としていて、まことにその通りだと感心します。つまり、大抵の場合、会社の方が無理を云っているので、宣伝部としてはその無理を承知で、何か仕事を頼む場合が多いのですから、こちらが感心したり同情していたのでは、われわれの仕事にならないわけです。殊に私なんか、相手の立場になって物を考え易いクチなので、任務遂行上ますます困ってしまいます。

 ところが、最後の土壇場になると、一応ゴテるだけゴテておいても、こちらの立場を考えて、(もちろん、時と場合によりますが)おさまってくれる優しさも、雷蔵さんの身上ではないかと思います。外面は毒舌なり“ゴテ雷”の殻で武装していても、内面は大変神経の細かい、温かい心を持ったヒューマニストだと思います。

 一見、いかにも坊ちゃん坊ちゃんした感じですが、大変シンのある、いわゆる“根性”を持った人です。それは天性のものか、あるいは学校時代から歌舞伎の下積時代にかけて培われたものか、もとより知るところではありませんが、その根性が今日の大をなさしめたのだと私は信じます。

 演技者としての市川雷蔵、その他いろいろの面から見た雷ちゃんについては、他に適当な人がいろいろとある筈ですから敢えて触れませんが、自分自身を語ることすらむつかしいのに、ひとを語ることは尚更にむつかしいものだとつくづく解りました。殊にその対象が、宣伝部対スターという立場をはなれても、私個人が人間的に好きで、スクリーンを通してのスターとしてファンでもある市川雷蔵だったので・・・。