親しみと尊敬 美術効果 加門 良一

 年も近いせいでしょうか、ちっともスターぶらない人なので、心易くつき合える雷ちゃんです。私はいつも感心するんですが、セットに入っても、隅の方で、私たちとふざけたり、冗談をいったりしてますが、いざ出番になると、即座にその役になりきってしまいます。冗談いっている中にも、ちゃんと、芝居のことを考えているんですね。ちょっと出来ないことです。

 『炎上』の時、一緒だったんですが、金閣寺の中で雷ちゃんが火をつけるシーンがあって、始めに煙が出て、炎になるという段取りだったんですが、それが、なかなかうまくいかないんです。雷ちゃんは、またこの次に頼むよと言われましたけど、雷ちゃんが、せっかく熱演していたのに、十分な効果が出せなくて、今でもすまないことをしたと思ってます。

 僕は今の仕事を始めて十年になるんですけど、雷ちゃんに教えられることがあるんです。ラッシュを見て、ああなるほどとうなずけることが多くあります。今年の正月にとった『初春狸御殿』の時も、若尾さんと雷ちゃんの幻想シーンで、廻りを暗くぼかし、白い砂でミニチュアの道をこしらえる手を雷ちゃん考えたんですが、ずい分と効果が出てるのでびっくりしました。本職の私どもでさえ、びっくりしたぐらいです。こんなアイデアを考えつくのも舞台に居たことが役立っているんでしょうか。歌舞伎の下積み時代にも、絶えず勉強していたことの表われでしょうか。

 スターぶらない人だけに、一緒に仕事をしても楽しく出来ます。よく雷ちゃんの毒舌を言われますが、徳というんでしょうか、おこる人はありません。本当に、俳優としても人間としても立派な、尊敬出来る人と思います。