現代人の批判精神 企画者 税田 武生

 半年程前から、各スターに、プロデューサーが一人づつつくことになり、私は雷蔵君についています。ついてどんな仕事をするかと言うと、忙しいスターに代って、資料を探したり、本も読んで、荒筋を話したり、スターの窓口相談のような仕事をするわけです。雷蔵君は、欲の深い俳優なので、非常に幅広い読書の範囲で、当然こちらも忙しく、いろんな本を読まされるわけですが、雷蔵君の貪欲な勉強心の触角にふれたものが、私のところにまわってくるわけです。

 彼の場合、次から次と作品に追われながらしかも、次々に、あれも、これも読んでくれと持ちこんでくる熱心さは買いたいと思います。企画者として見ると、雷蔵という俳優はぼんぼん的な面もあれば、影ある役もこなす一方、二枚目半的な役もいける訳で、企画にもバラエティに富ますことが出来、重宝な役者といえましょう。次々と作品に追いかけられる俳優は一つに偏し易いものですが、その点、彼は振幅の大きい俳優と言えましょう。

 彼の貪欲な研究心は、また、自己の職業に忠実な、現代人の割り切り方、また一面を表わしていると言えます。彼の、現代人としての批判精神がまた同時に、自己に対する厳しさとなり、貪欲な研究心となって表明されるわけでしょう。こういったたゆみない研究心は俳優として、当然かもしれませんが、仕事の忙しさから考えれば大変な努力のいることではないかと思います。

 現代人としての批判精神と、彼の努力の結実が、今日の市川雷蔵をなしていると言い得ましょう。