黄金の年’60にふさわしく、ファン待望の話題作がずらりと勢揃いする大映の明日を彩る作品展望!

 映画界も初夏を迎えていよいよ活況を呈して来た。特にゴールデン・ウィークは年に一度の書き入れどきとあって、各社とも自信満々の超大作を押し立てて、必勝を期している。例年のことながら、この週間は“夏の陣”の勝敗を決するという意味で、正月興行と並んで重要視される期間である。とりわけ今年は“黄金の年”と呼ばれる消費景気の年だけに、“黄金週間”に対する期待は大きい。正月興行を終えてホッと一息した宣伝マンたちが、また目の色を変えて走りまわるシーズンだ。

 折しも、大映では、従来の月二本の地方向け中級作品を強化し、月六本のフィチュアー製作方針を打出した。この大方針が企画、製作の段階を経て、封切番組の上に結実するのは、秋の映画シーズンからと見られているが、現在製作中の中級作品も製作途上で暫時大型化して、実質的には月六本の大作主義を五月以降の番組に実現する模様である。

 ここで注目すべきは、月六本のいずれをも超大作か娯楽巨篇に割り切り、その中間的な作品はつくらないということ。また、何より興行価値を尊重し製作面での若返り策をこれまで通り積極的に推進すること。この二点を確認し、大作主義に徹すると同時に、日本映画界の主導権獲得を目指し、映画産業そのものの発展を基本方針とする大映の今後に寄せられる期待は大きいものがある。以下、ゴールデン・ウィーク以降の予定作品を総まくりして、話題を集めてみた。(註:雷蔵出演作品のみ)

歌行燈

 『湯島の白梅』『白鷺』と大ヒットを続けてきた衣笠貞之助監督、山本富士子主演コンビが、三たび泉鏡花の名作に挑む悲恋の文芸巨篇。しかも今度は市川雷蔵が登場して、山本と情緒纏綿の悲恋模様をくりひろげ、哀切にして艶麗、まさに鏡花文学の極地を目で見る一幅の絵巻物となっている。

 時は明治末期−その頃、日本に比肩なき能楽の名手恩地喜多八は、伊勢神宮奉納能の帰途、若気のあやまちから土地の能楽天狗宗山と芸を争い、彼を屈辱で憤死させてしまう。直接手を下さずとも人を殺した罪は大きい。これが因で家元から勘当され、芸を捨てることを心に誓った喜多八は諸国流浪の旅に出る。そして数年−再び思い出の地桑名にたどりついた彼は、はからずもその土地で芸者でに出ていた宗山の一人娘お袖にめぐり会う。

 お互いに仇同士と知りながら、なお恩讐を越えて燃え上がる情恋の炎、固く結ばれた心と心が許されぬ逢瀬を求めてもだえて、幽幻の恋物語を展開する。鏡花文学の中でも、愛怨の名作として屈指の作品であり、この種の作品では第一人者の衣笠演出により演ずるは雷蔵・山本とあれば、全女性の紅涙をしぼり、全映画ファンを魅了しつくす名作が期待されるわけである。