わが青春の記

 − 東京というと、ぼくには二つの宿がある。宿というよりは感覚的にも自分の家みたいになっている場所がある。帝国ホテルと青山にある錦ちゃんの家のことである。青山の錦ちゃんのとこは、東京でのぼくの心強い憩いの場所であり、まことに錦ちゃんの家にはすまないが、事実我家同然の気持ちにぼくがなっているのだから、カンベンしてもらうことにしたい。

なにしろ気ままな独り者だから、ふとお新香やお味噌汁が恋しくなれば、その点まったく打ってつけ、上々のおいしいのがそろっているのが錦ちゃんの家である。

「ただ今・・・・」

と青山の家に入れば、

「お帰りなさい」

という仕かけのぼくと錦ちゃん一家の間柄なので、兄弟のないぼくには、この青山の家はわが家みたいなもの。時々ぼくは、雷蔵という人間は当然小川家に生れるべきであったのに、間違って他家に生れてしまった・・・・と錦ちゃんたちに公言して笑わせたりするが、まったくこのような同族のいるのが東京なのだから、ぼくにとって東京はやはり魅惑の都会といってよのである。