異国で迎えたお正月

一月一日

初めて迎えた異国でのお正月。いまごろ家でもオトソをのんでいるだろうなどと、ベッドの中でふと思う。ボクたちも『ミヤコ』という料亭に行き、お雑煮を食べてから、日本領事館へ新年のあいさつ、領事館の皆さんから「明けましておめでとう」と、歓迎された。オペラ歌手の大谷冽子さんもみえて、みんなでおトソをのむ。

そのあと、いよいよ『ハワイ国際劇場』で新春興行『清元祭り』に出演する。

これから三日まで、この舞台でハワイのみなさんに観ていただこうと大ハリキリだ。なるほど日系の人たちばかりでなく、一般の米人のお客さんも多い。一幕ごとに、わからぬながら、盛んに拍手してくれるのはうれしい。

舞台の説明も英語で、ボクの『火消し』を『ファイヤー。チーフ』などとやるのはケッサク。なんだか、消防団の団長みたいで、思わず笑ってしまった。

舞台がハネてからまっすぐホテルに帰るが、熱心なファンがきて、ハワイの話をしてくれたり、ボクも日本の話をする。

ハワイの娘さんはみんな美しく、発育がとてもいい。情熱的な瞳とはつらつとしたスタイルが印象的。映画ではボクがブルーリボン賞を受けた『炎上』のことをいろいろ聞かれた。これはハワイでは上映されなかったとのこと、ぜひ観てもらいたいものだ。

さよならハワイ

一月四日

無事に公演も終えて、いよいよハワイともお別れの日だ。日本でも仕事やファンの人たちがボクを待っているだろうなどと考えながら、ワイキキの海岸を泳ぎにゆく。カヌーに乗ったり泳いだりしたおかげで、まっ黒に陽やけした。

お土産は、いろいろ考えた末アロハシャツにする。ハワイ土産といえば、やっぱりこれがいちばんだろう。

買物がてら街を歩き、公園になっている墓地を見物する。そうしているうちにも出発の時刻が迫ってくる。楽しいことばかりのハワイともいよいよお別れだが、機会があったら二度でも三度でも来たい。飛行機の故障で約三時間遅れて出発。来たとき同じように、盛んなファンや興行関係、新聞雑誌関係の人たちの歓送を受けて、親切なみなさんとの再会を心に描きつつ美しいハワイを下に見て、日本へと飛び立った。(平凡60年3月号より)