(一番上の部分はスキャナーの不具合です)

混血の美男子で円月殺法という必殺技を持つ凄腕の浪人、柴田錬三郎のベストセラー小説「眠狂四郎」は、映画では鶴田浩二、市川雷蔵、松方弘樹、テレビでは江見俊太郎、平幹二朗、片岡孝夫(現・仁左衛門)、田村正和らによって演じられてきたが、なんといっても市川雷蔵が最高だった。

鶴田浩二の三部作は父親が妖しい邪教の教祖という設定で、混血にはなっていなかった。

混血を初めて打ち出したのは市川雷蔵で、髷も茶色がかっていた。

雷蔵狂四郎の特徴は、それまでのストイックな時代劇のヒーローと違い、平気で女を抱くことと、平気で女を殺すことにあった。特に後者は衝撃的だった。それまでの時代劇に登場した悪女は、途中で改心して主人公の味方になるか、誤って仲間に殺されるか、自害して果てるかでヒーローが直接手に掛けることはなかったのだから。

雷蔵の眠狂四郎は12本あるが、あっしのベストワンは「眠狂四郎女妖剣」(1964年・池広一夫監督)だ。隠れキリシタンたちから聖女とあがめられているビルゼンお志摩(久保菜穂子)を守ってくれと頼まれた狂四郎は、それを断るも、いつの間にか騒動に巻き込まれてゆく。そしてそこで明かされる狂四郎の出生の秘密。狂四郎は異国人の神父を転ばせようと幕府が用意した旗本との間に生れた子だったのだ!

そして隠れキリシタンたちが命を賭けて守ろうとしたビルゼンお志摩こそ、彼らの情報を幕府に売っていた稀代の悪女だった。

真相を知った狂四郎は愛刀、無想正宗をふるってビルゼンお志摩の修道着を一枚ずつはぎとってゆく。お志摩は狂四郎が剣をふるう度に嬌声をあげる。狂四郎が自分のすべての衣服をはいだ後、自分の美しい肉体にむしゃぶりついてくることを信じて。そして薄物一枚になったお志摩を無想正宗が切り裂いた。

斬られたお志摩は信じられない、なぜ私を・・・?といった表情で死んでいく。刀を納め、その場を立ち去る狂四郎がぽつりつぶやく。

「斬れる。無頼の徒さ」

このラストシーンは子供ながらにしびれたものだ。

雷蔵狂四郎の魅力は、円月殺法に代表される殺陣とシーンと、当時の時代劇には珍しいエロチシズムにもあった。藤村志保、緑魔子、水谷良重(現・水谷八重子)、三木本賀代とった女優たちのヌードにも興奮させられたものだ。

雷蔵の死後、大映は東映から松方弘樹を借りて「眠狂四郎」「若親分」とった雷蔵の当たり役を継がそうとしたが、どれもヒットしなかった。「キツーイ一発」の一言でマスコミを騒がせた陽性のスケベ、松方弘樹では虚無と孤独の影をもって生きる眠狂四郎を演じられるはずはないのだから。松方弘樹はむしろ、勝新太郎の当たり役の方が似合ったのになあ。(落語家) 読売新聞04年2月8日「日曜くらぶ」より