ついでにもう一つ、面白い祝辞を引用しよう。歌舞伎の方を代表して、団十郎である。

市川団十郎

 −たしか雷蔵さんは二十九年七月、映画の仕事をされていましたが、私も同じ時に映画の真似事をやり、同じ日にスタートしたのですが、私の方は一回きりで落第してしまいました。そして二度目にまた出たんですが、これもまた失敗してしまいました。あんまり口惜しいので、同じにスタートした雷蔵さんはどんな具合だろうと『新平家物語』を拝見いたしたのであります。そういたしますと、その一年間のめざましい進歩ぶりというのに私はびっくりしてしまったのであります。それだけ一つの道に熱を入れられたその結果がこういうことになったのか、つくづく感心したのであります。

 雷蔵さんとしては、ここでまた飛躍する一つの段階に来ているのではないかと思います。その時に永田社長のお譲さんとの御結婚は誠におめでたい上に鬼に金棒と思います。この後いろいろ困難がおありと思いますが、お二人がふみ越えられまして、益々日本映画のためにお尽くし頂くことをお願い致したいと思います。同じ市川の姓を名乗る者と致しまして、まことに喜ばしく思います。おめでとうございます。−

 いかにも芝居の人らしく、行届いた如才のない挨拶である。

『若き日の信長』のシナリオを団十郎と見る