無造作好みの千代之介さん

千代之介 だんだん下におりてきたね。今度はなに?

雷蔵 靴やね。

千代之介 靴か。靴はヒモなしがいい、簡単で・・・。

雷蔵 東さんは何でもかんでも無造作好みやな。

千代之介 いやあ。(笑声)

東千代之介さん

本名 和田孝之 大正15・8・19生まれ 昭和29年東映の「雪之丞変化」でデビュー 「紅孔雀」他に出演

橋蔵 色は何が好き?

千代之介 好きなのはチョコレート色、夏はネズミ一足、冬は黒一足、いつでもはけるチョコレート色が三足、というところです。

雷蔵 茶色が五足か六足。

橋蔵 今日はどんな靴?

雷蔵 古靴、オンボロや。(ウソです、雷蔵さんの今日のクツは、茶のステキな極上のものです)

橋蔵 ぼくのところにはぼく自身専用の靴の棚がありましてね、いつもバックスキン(裏皮)や、普通のがいならんでいるんですよ。

千代之介 ちょっとすごいね。

雷蔵 何段もあるの?

橋蔵 いいえ一段きり。一足ダメになるとまた一足買ってきて補充あするのがクセでね。いつも十足そろっていないと気になって・・・。

雷蔵 誰かはいていでかけるとカンカンに怒るんやろうなア。

千代之介 そうですか?

橋蔵 おこりません。ぼくは人間ができているから。(笑声)

千代之介 靴下は?

雷蔵 どちらかといえば、無関心やね。

橋蔵 そう、洋服やネクタイほどにはね。

千代之介 ぼくもそう。

雷蔵 今日雨ふってたやろ、だから悪いのはいてきた。ほれ紺無地のナイロンや、ちょっとセンスないなこれ。

千代之介 ぼくはエンジ色のナイロン。

橋蔵 ボクのも灰色のナイロン。

雷蔵 みんなナイロンや流行りやな。話ちがうけど、東京ではまだマンボ・スタイル流行ってるんか。あれやったら勝(新太郎)さんや。あの人はほんまによく似合う、似合うならええやないか、なあ。

橋蔵 ときどき街で勝さんをみかけるけどスゴイね。意想外な恰好で歩いている。

千代之介 ぼく自身ああいうスタイルとは縁遠いんで、あまり好きじゃないね。

橋蔵 ぼくもね。だけど雷蔵さんがいったように、似合う人はやったらいいですよ。スタイルそのものは決してわるいもんじゃないものね。

雷蔵 そうやな。似合う人もいるんやから・・・。

チョンマゲをとって時代劇の衣裳をセビロにきかえた三人の話は、それからそれへとはずんで夜のふけるのもわすれているようでした。