特集・雷蔵さんの休日@

私の暑中休暇

土の匂いがする北海道
大自然の中で生き続ける北海道
その地でわずかな休日をたのしむ雷蔵さん
当初の目的は大毎 - 南海戦観戦にある
しかし、それでも北海道の空気を吸って来た事はまちがいない
紀行とは一寸おおげさかもしれないが
雷蔵さんの北海道のぞ記ぐらいの所でしょう
写真でその後を追ってみました

 世の中というものは、誠に皮肉に出来ているものだ。と痛感したのがこの夏のことでした。

 かねてから期待していた七月のアメリカ旅行がスケジュールの関係で行けない事になり、少なからぬ失望をしていた所、八月に入ると月の始めから、ポカッと身体があいてしまいどう時を過すかに苦しむほどの無聊に見舞われたのです。こんな事がもっと早くわかって居れば、今頃アメリカに行けていたのにと、軽いいきどおりすら感じたくらいでした。

 そこで撮影所のお盆休みを利用して、いつもの通り東京を訪れることにしたところ、東京滞在中に思いがけなくも、私にとっては、アメリカ同様に未知の世界であるところの北海道へ行ける事になったのですから、全く皮肉なものだと思わずに居られません。この東京行きの最初から、今度の旅はいつもと変っていました。というのが、その夜八月十三日と云えば、台風七号の影響で京都は異常な大雨に見舞われ方々の河川が氾濫し、私自身も嵐山の奥の清滝のほとりで親しい友人達と一夕の歓を送る予定だったのが、そこで目のあたりに見る凄まじい出水振りに歓談もそこそこにして、大袈裟にいえば生命からがら京都駅へ逃げ出した様な状態でした。

 さて駅へ着いて見ると東海道線はダイヤがめちゃめちゃになっていて既に予約してあった列車は待てども待てども現われて来ません。ついに延々二時間半も待たされて、やっと乗車するはこびまでこぎつけましたが、翌朝目をさまして、窓外を見ると東京近くまで来ていると思いのほか汽車はまだ名古屋の近く安城附近を走っているという始末で、さすがの私もアッと驚いてしまいました。その上急行とは名ばかりで汽車は普通のダラ列車と変らず、止っては走り、走っては止りのスローテンポで、しかも、駅弁すらなかなか買えない有様で全く弱らせました。

 その間、ジュースと牛乳だけで、どうにかお腹をごまかしながら、夕方五時半頃、静岡でやっと食事にありつけたのですが、東京駅に朝の九時四分に着くはずの列車が品川駅に着いたのが午後九時二十分というまことに有難くないレコードを作ってしまいました。東京での一週間はこれといって目新しいこともなく、まず適当に食べて飲んだと云う所で、その間がいつもの通り、東京の雰囲気を吸収したわけですが、どの程度、それが身についたかは、まだ今の所ハッキリと形に現われていません。

注:台風7号 8月13日〜14日に台風7号が襲来、駿河湾から富士川付近に上陸して日本海に抜けた。この台風は各地に豪雨をもたらし、近畿、甲信越、東北にかけて水害が発生、死者行方不明者235人を出した。