ホネっぽい優等生・市川雷蔵

視覚的映画をという理論派スター

 なんだかチートも面白くない。これひとえにやつがれが未熟なゆえ。かねがね映画スターきっての理論家と聞いておった彼に、個性的な発言をと、非常にマトモな質問をしたのだが、非常にマトモな答えがハネ返ってきただけで、“忍びの者”的反体制的発言も、眠狂四郎的ニヒルさも皮肉も感じられなかった。楷書のような行儀よさ、やはりこの人は“優等生”なのであろう。虚無の剣士に扮し、冷たい美男子ぶりをスクリーンで見せる彼が、すこぶる平凡な、どこかそこらのサラリーマンみたいな素顔であるのはちと意外。しかしそれだけに現代ものも立派にコナせる数少ない時代劇スターという強みを持っているわけだ。

 いうまでもなく勝新太郎と並ぶ大映のエースだが、同時にデビューしてほとんど十馬身以上も引き離していた勝に、こんにち追い越された形になったのはショックだろう。しかし、マットウな武士が主人公の時代劇を撮っているのは現在彼一人。衰退した時代劇の孤塁を守る彼にはなお一層頑張ってもらわなければならない。

 梨園の元老・市川寿海の養子。ワイセツか芸術かでいつも問題を提起(?)する武智鉄二が、この“マジメ人間”雷蔵を指導したというのも意外や意外。もっとも結婚前はかなり祗園でご発展だったという噂もあるから、まんざら石部金吉でもないようで。将来は大映の経営陣に加わるだろうと取り沙汰されているが、そのホネッぽさと理論的情熱を、日本映画巻き返しのために叩きつけてほしいものだ。今回の大映経営陣刷新については、あえて聞くのを避けた。