表札には「太田吉哉」と・・・


話がわき道にそれてしまいましたが、さて、三十年の正月以来、雷蔵さんが住んでいらっしゃる大将軍の家とはどんな家でしょう。

市電が終戦後に開通したという西大路をちょっとはいったところに、ちょっと見ると一軒のようであり、よく見ると、別の家であることがわかるように、ピッタリとくっついた二階家があります。その、四辻に面した方の家が、雷蔵さんの家で、赤十字、水道、ガス、放送などの鑑札とともに、『太田吉哉』とかかれた真新しい表札がかかっています。玄関をはいって左手は二階の応接間と雷蔵さんの居間に通じる階段があり、右手には、お風呂や台所が、洒落たノレンのかげにのぞかれます。

正面の部屋は、一家団欒の四畳半で、マネージャーの森本さん、お弟子さん、家政婦さん、女中さんたちが、主人公の雷蔵さんを囲んで、食事をしたり、その日の出来事を話したりする部屋です。ここには、電話が置かれてあり、その横には、相手方を待たせる時に、退屈させないようにという黄色のオルゴールが置かれていますが、これはファンからの贈物とのこと。


チェックのスポーツ・シャツに紺のズボンという普段着のその日の雷蔵さんに案内されたわれわれが二階に上ると、机の前に『雷』を染めぬいた座ブトンが印象的な雷蔵さんのお部屋には、ずらりと並んだファンからの贈物が目につきます。雷蔵さんのデビュー作「花の白虎隊」のお人形、毛糸で編んだ犬の玩具。藤娘の人形、はてはオモチャの自動車まであるという多彩さです。

贈物を飾った棚の下にはズッシリと重みのある箱がありました。「これは『新・平家物語』にはいる前に買ったテープ・レコーダーや」しばらくお話ししているうちに、そろそろ、お得意の関西弁が飛び出して来ます。関西なまりと、雷蔵さんの特徴のひとつである語尾の消える発声を矯正しようと、ひまがあるとこのテープ・レコーダーにセリフを吹きこみ、勉強に余念がないという雷蔵さんです。

勉強室の隣りには応接室があります。もともと二間だったものを、境目をとりはずしてジュウタンを敷いたこのお部屋には、テレビや、電蓄や、応接セットがぎっしりと整頓されて配置されています。