- 出演作品のすべてを語る -

昭和30(1955)年

 この次男坊鴉が好評だったので次男坊シリーズとして、衣笠貞之助先生が、私のために『次男坊判官』を書いて下さったが、これは若き日の遠山金四郎で、嵯峨君と三度目の共演。(注:雷蔵の記憶違いか、嵯峨三智子は出演していない)次いで八潮悠子さんと、初顔合わせの『鬼斬り若様』のあと、初めての衣笠作品『薔薇いくたび』に出演のため東上したが、最初の現代劇というのに皮肉にも神代時代の服装で出る事になってしまった。次の『踊り子行状記』で、初めて山本富士子さんと共演また勝君とは一緒にデビュー以来、十本目でようやく顔を合わせることになったが、残念ながら愚作に終ってしまった。

 私の代表作になった今は亡き溝口監督の『新平家物語』はデビュー作品とともに、忘れられない作品です。この清盛は線の太い、たくましい役柄で、それまでのいわゆる白塗りの二枚目とは違った役で、この作品で私は演技者としての情念というものに目覚めたと云えるかも知れません。しかし溝口先生とはこれ一本で終ったことが、かえすがえすも残念でなりません。このあと、冬木心中から材を得た『いろは囃子』と、明るい役どころで勝君と共演した『怪盗と判官』が続きましたが、撮影中に養父の市川九団次が死去し、悲しみのうちにこの年も暮れました。