『新平家物語』の清冽、『月形半平太』の颯爽、『薄桜記』の哀切、『ぼんち』の洒脱、『歌行燈』の色気、『斬る』の気魄、『眠狂四郎』の虚無、『ある殺し屋』の孤独・・・様々なイメージをスクリーンに定着させた市川雷蔵が37歳で夭折(1969年7月17日午前8時20分)して21年。

 しかし、時間の流れに逆らうかのように、雷蔵追慕の声は高まるばかりだ。いったい、誰がどんな思いで過去のスターの幻影を追い求めているのだろうか。スターらしい華やぎと市井人の堅実をあわせ持った市川雷蔵の魅力とは・・・。

 

 

 

キネマ旬報90年12月上旬号より

 

日本映画界が失った才能と技術

 今年の三月から発売元=大映、販売元=パイオニアLDCという形で大映邦画作品をレーザーディスクでリリースしているんですが、スペシャル版『大魔神全集』、『金環蝕』と特作、大作が続いた後、通常路線として何を出すかで大映の担当の方と悩んだんですよ。既に大映でレーザーディスクで発売しているものとの兼ね合いとか諸々あって、結局、先に出した『白い巨塔』『金環蝕』と同じ山本薩夫監督作品の『忍びの者』を正続出したんです。

 ご存知のように大映はセット・シリーズの宝庫ですからいろいろなシリーズを少しずつと思ったのですが、『忍びの者』が好評でしたので、市川雷蔵で行こう、雷蔵と言えば「忍びの者」より「眠狂四郎」シリーズを基本に、まず時代劇を、雷蔵主演の時代劇を出して行こうと考えました。

 大映の担当の方がもの凄く熱心で、マスターはディスク用に全部新たにオリジナル・ネガからテレシネを起こしているんですよ。しかもデジタル、もちろんノートリミングのスコープ・サイズです。大映はフィルムの保存もいいですからね。画質については現在、入手出来る最高のものという自信を持っています。予告編も全部あるようなので、それも収録してあります。これで値段は五千円以下なんですから、本当にお買い得だと思いますよ。

 ジャケットも、雷蔵作品を封切りで見ていて、私なんかよりずっと作品を知っているデザイナーがデザインしていますからいいですよ。

 内容に関しても、今では日本の映画界から失われてしまった才能と技術と資本がたっぷり注ぎ込まれていますからね。娯楽江宇賀としてとても良く出来ている。作り手の丁寧さには今更ながら感心します。それでいてランニング・タイムは八十分というコンパクトさ。日本映画、黄金時代の贅沢さを感じます。

 今後の予定ですが、年末には「大菩薩峠」(全三部)を三作品セットで出します。「陸軍中野学校」シリーズとか『ある殺し屋』などの時代劇以外の市川雷蔵主演作も、是非出したいですね。もちろん『薄桜記』も『忠直卿行状記』も『剣』も『斬る』も『ひとり狼』も出したい。

 そのためにはやはり売れなければということになるわけで、今はデジタル・マスターを新たに作ったりしている上に低価格なので正直言ってぎりぎりのところなんです。発売月にもうちょっと売れてくれるとぐーんとやりやすくなるんですけどね。

(内山一樹 パイオニアLDC(株) 第2制作室