時代劇の新星座A市川雷蔵

雷蔵君へ

溝 口 健 二


 若い演技者に望むことは、若いうちに、厳格な訓練と勉強をして適確な芸の基本を把握し、これを身につけて、基礎を作ることです。巧拙を考えたり、浅薄な見様見真似の器用さを発揮しようなどと思うことは、若くして、自ら墓穴を掘るものである。

 雷蔵君は関西歌舞伎にあって、幼少の頃より、芸についてのきびしい躾をうけ、加えて、武智鉄二氏の指導をうけて来ているから、この点はきっと誤ちはあるまいと思う。今度、『新・平家物語』の清盛の大役をやって貰うことになったが、容貌骨格は大変柔弱で、口許など、まだ乳房を含んでいるように愛らしい。これをメーキャップで工夫して強い眼差しを作るよう研究しているが、この外貌の条件を克服して、新鮮な力強いボリュームを創り出してゆくことがおそらくこの人にとって、今後の一番重大な課題ではないかと思います。

(時代映画 No.3 55年7月号)