と、二十八年九月、大映の酒井製作部長(当時)が親しい人を通じて、夕御飯をたべたいといってきました。ハハア、これは見合い結婚だナ、と感じて、マア破談だろうと思って会ったのでしたが、歌舞伎俳優として映画に出演して欲しいとのことなのでした。

 僕は父に相談しました。映画俳優にするために僕を養子にしたのではない、といわれそうな気がして、話にくかったのですが、案外、「歌舞伎を捨てないで映画にでるのなら若いうちはやりたいことをやって、苦労すがよい」というのでした。

 そのうち、大映以外から専属俳優に、という話もありました。しかし僕はあくまで歌舞伎俳優として生きる決心だからお断りしました。そして、去年の九月『花の白虎隊』出演という運びになったのです。

 それからもう十本。今年の一月、大映と専属契約をむすびました。しかし、これとて歌舞伎の世界を捨てたわけではありません。いつかこの映画で身につけた新しい感覚を歌舞伎にいかして・・・と考えているのです。幾年さきかわかりません、しかし僕はきっと歌舞伎に戻ります。なぜなら、僕は寿海の子なのですから・・・。