市川雷蔵(大映)の場合

雷蔵宅を死場所に

 雷蔵の家は京都の市街からよほどはなれた洛西鳴滝にある。郊外電車やバスにゆられてトコトコいかねばならないから、女中志願者などはあまり押しかけないが、風光明媚なので、死ぬならば雷蔵さんのお家のそばでという妙な自殺志願者があるので弱っている。この間も、深夜グショ濡れの上着を羽織った女が門を叩いた。

 事情を聞いてみると、九州からでてきた十五歳の少女で、複雑な家庭事情から自殺しようと、いろいろ死場所を捜したが、ふと思いついて「どうせ死ぬなら、かねてからあこがれている雷ちゃんの住いの前で」と決めた。そこですぐそばの鳴滝川へ飛び込んだのだが、川が浅いので死に切れず雷蔵の家へ救いを求めてきたわけ。

 前にも門前で服毒自殺しかけた娘さんのファンがおり「まあこの付近が俗世を離脱したくなるようないい環境だからでしょうね。しかしぼくの家を錦ヶ浦(熱海にある自殺の名所)がわりに使われてはかなわないな」と雷蔵、変なところで自慢したり嘆いたり。