私は、何も知らされていなかったものですから、雷蔵が病気だと聞かされて、大変ショックでした。私は、自分が菊五郎から受け継いで身につけた芸を、今度は今度はと思いながら、結局、雷蔵に教えることが出来ませんでした。ですけど一つだけ、私は雷蔵に繰り返し申した言葉がありました。お前は歌舞伎役者なんだぞ、それだけはどこにいても何をしていても忘れるな、はいとあの子はその度に肯いておりましたが、病には勝てなかったようです。

映画でみなさんのお世話になって有名な役者になれたことは、せめてもの慰めです。とくに大映の永田さんにはお世話をかけました。(「侍市川雷蔵・その人と芸」より)