京都市右京区鳴滝の自宅で茶を楽しむ雷蔵さん

 

交際はしたけど

 この永田社長の意向を聞いた長谷川一夫は、こう答えたという。

 「なかなかいい考えですが、私は親として娘に結婚を強制する力はありませんから、なんとも言えません。しかし、雷蔵君と親しくする方向にもっていくようには協力できると思います」

 その結果、それまで多摩川の現代劇で活躍していた小野道子を京都の時代劇で移し、雷蔵と接触する機会を多くした。

 永田社長からこの話を聞いた雷蔵は、儀礼的にこう答えた。 

 「私の縁談まで心配してくださることは感謝に耐えませんが、小野さんとの結婚については、小野さんをよく知らないので即答はしかねます。しばらく交際期間を与えてください」

 雷蔵と小野道子のつき合いは表面なごやかだった。だが、結果的に見て、小野道子は青山ヨシオと結ばれてしまったのだから、この縁談は失敗してしまったわけだ。

 それでは、雷蔵にはすでに意中の人がいたのだろうか?中村玉緒、金田一敦子、嵯峨三智子とそれぞれゴシップは立てられたが、いずれもゴシップの域を出ていない。

 「祗園の舞妓さんだとか、上京するたびに帝国ホテルで会っている美人だとか、いろいろウワサはあるが、現在のところ、彼の結婚候補の本命は、彼の鳴滝にある家の女中さんらしいよ。すばらしい純日本的な美人で、雷蔵の旅行のときは、いつもいっしょに汽車に乗っている。まあ、海老蔵だって女中さんと結婚した例があるんだから、彼が女中さんと結婚したって、ちっともおかしくないはずだ」 とは、関西の芸能記者の述懐である。

正月作品『二人の武蔵』で対決する長谷川武蔵と市川武蔵