雷蔵のこと

 この社会では名門の子であると、役者がまずくてもいい役をふって引き立てる習慣があります。私は自分が門閥出身でないからいうわけではありませんが、そういうことは好みません。ましてこれからはなんといっても実力が物をいう世の中ですし、身分不相応なことはやらぬ方がいいと思って、雷蔵にいい役が付こうが付くまいがすべて会社にまかせ、いい役が付かない時は

 「不服を言ってはいけない。これでがまんしろ」

といって聞かせておりました。

 こうして一年ばかりたったある日、雷蔵は大映の映画に出演したいとう話を持って来ました。私が松竹の舞台に出ているので実のところ、少々困ったのですが、こういう社会で育っていながら私は元来、人の自由を束縛することの嫌いな人間ですから、雷蔵の熱意に動かされて、それでは自分の道を歩けといって、映画入りを許してやりました。しかし、たとえ手段は違っても、芸という目標は同じですから、これでいいのではないかと思っております。

 雷蔵が映画へ入ってから、どうしたわけか私のところへも若い女性のファンレターが時々来ます。読んで見ると

 「雷蔵さんには毎日お手紙を出すのですが、まだ一度も御返事を頂きません。どうぞお父さんから返事を出すように叱って下さい。ついでに寿海さんのサインを下さい」

などとあり、全く若い者にはかなわないといつも苦笑しております。

雷蔵に映画『弁天小僧』の演技指導をする