場所は京都・春がすみの下で

いつもなら“例によって、場所は歌舞伎座前の青葉亭”と書き出すところだが、今月は、京の空の下である。

というのも、実は、京都に折りよく居合わせた時代劇の三大スターに顔をそろえて“チャンバラ談義”をやってもらいたかったのである。

で、場所は、その、京の、四条大橋のたもとなる割烹“ちもと”・・・ここは扇雀さんのおばさんが経営するところであるそうな。座敷へとおされると、眼の下に加茂川・・・。そして、眼正面に南座・・・。いわば京の中心でもある。

珍しくポカポカと温かい春日和で、遥かな連山の峰々も紫色に霞んでいるのだ。

「で、きょうは、どなたはんがおいでどす?」

その“ちもと”の、優しい女中の京言葉に、記者の笠原君は面喰いながら

「いや、顔を見れば判りますよ・・・」

そして、カメラの長谷部君も、ライトの準備にいそがしい。

さて、三時という約束の定刻きっかり、いや、正確にいえば、五秒前に到着「いやア、しばらく・・・」と顔を見せて下さったのは誰あろう美貌と歌の高田浩吉さんだ。

淡いブルーの上衣・・・。顔がぬけ出す程白く、ほんのりピンク色である。“吉野の盗賊”の時のセットを訪問して、これが二度目である。

「アーラ」女中さんが喜んじゃって

「しばらくどすなあ・・・先生。お化粧しておいやすのどすか?」と、それにこたえて高田さん

「阿呆何で座談会に化粧せんならん・・・。これ素顔やで・・・」

「まア・・・だってすごくおきれいどすよって・・・」

その美しさに見惚れるという幕間前のワンカットがあって、続いて、茶の上衣に紺のワイシャツ、眼鏡をかけた市川雷蔵さん、五分おくれて、紺の変り型ジャンパーを召した東千代之介さんのとうじょうである。

お二人とも、また、会社は違えど顔なじみである。

年代順に浩吉、千代之介、雷蔵のお三方

「早速ですが、きょうの話題は、“京かすみ・チャンバラ談義”というので、年代にわけて三人の方にご足労願った次第・・・。ひとつ一番上の高田さんから・・・」と、まず口を切ると

「その年代というのが気に入らんよ。僕は三十八歳でっせ・・・」と、高田さん。それに千代ちゃんが

「先生が三十八歳?と、僕は、じゃア二十といくつかな・・・」とまた、雷さまが

「じゃ、僕はどうなるんや、十代だね?」

アレアレ、最初から年争いになった。

どちらにしろ、三十代は高田さんお一人・・・。映画経歴からしても大先輩である高田さんを囲んでの談義を風発さしていのですが・・・。

で、「高田さん、今年は何をもくろんでらっしゃるんです?」と、改めて質問の第一矢をはなった。

「仕事の話?は、やろうとしてるのは、淡島千景さんとの“鶴八鶴次郎”・・・それに・・・はア、僕の地でいける現代物が一本・・・」

「地でいける・・・というと、初老の紳士・・・というところですか?」

意地悪く、僕もさからってみる、と高田先生、あの美しい眼を見開いて

「青年ですよ、三十五六歳・・・という」

高田さんの気の若さは驚くばかり・・・。いや、勿論、お顔も・・・だけれど。

「高田さんは現代劇をおやりになるらしいが雷蔵さんは?」と高田さんが

「雷蔵君、まだまだ、あせらん方がいいよ。第一、僕らは、時代劇という、ちょっと、二年や三年では勉強できない分野の、大切なからだだからね・・・」

「じゃ、千代之介さんは?」と、雷さまを素通りすると

「僕はね、もう発表しちまったものに、“男の舞扇”というのがあるんですよ」

「ほう?と、それは、お家芸の舞踊をふんだんに見せようという現代もの?」

「ところが、その主人公、合気道という武道の達人で、踊は、最後にチョッピリ・・・。あとはエイヤッですな・・・」

「と?やっぱり、チャンバラかな?」

そんな話の最中に、また高田さんが、

「現代劇といえば、上原謙さんね。あの人は偉いが、しかし、なんであの年でフケ(老役)をやるのか・・・と思うんだな。マイナスだよ。あの人地でやれば、まだ二枚目ですよ」なるほどそのとおりだ。

「そうですね。ゲイリー・クーパー・・・確か、もう六十近いが、まだ色男役をやっている・・・。ロバート・テイラー然り、クラーク・ゲーブル然りですものね・・・」と、これは僕の相槌だが、全く、早く。フケ過ぎる日本の俳優たちよ・・・である。

尤も自己の映画的命脈を保護する意味か、或はまた芸術的意欲からなら、また、ナットクもできるが・・・。