雷ちゃんは善人のかたまり      藤田 昌一

 スターという人達は、私の知る範囲に於いて、誰とでも雑談の時や場所を持ちたがらない。それが退屈という暇の気泡の中で悶絶しそうになる様な思いをしていても・・・。

 ところが雷ちゃんの場合は逆である。自分でその時と場をつくる人である。そして、雑談を楽しみ、その中から何かを拾い出し、それを吸収してしまうという、自己の建設にまことに意欲的である。

 そして、自分の出演するための自分の、主役を演ずる市川雷蔵の役柄を、映画を観てくれる観客心理の解剖から始まって、きわめて計算的に自分を確立する人である。勿論、その映画を演出する監督の才能なり、方向なりの中に、積極的に自分をはめ込んで行くたゆまない努力家でもある。

 と書いてしまうと全く以って、隙のない人の様に思えるかも知れないが、人間的には隙間だらけの善人である。

 雷ちゃんを囲む若い連中がいる。

 彼等は、雷ちゃんの暇と懐を盗むのが甚だうまい。

 雷ちゃんはその盗賊連中に囲まれて、眼鏡の奥の柔和な目をほころばせている風景は、まさに善人のカタマリみたいである。雷ちゃんは、彼等と一緒になって、飲み、喰い、遊び呆けるのだ。

 まったく、“ぼんち”そのものである。

 人間的なあまりにも人間的であるスター雷ちゃんの一面を知って頂きたいと思います。

 (筆者は大映京都撮影所製作課長)