インタビュー
 行内誌「さんわ」の「撮影所めぐり」を担当されている同人の宮原京さんが、「婦系図」撮影中の大映スター市川雷蔵さんをインタビューされた時の模様を寄せて下さいました。
−いま、「婦系図」の主役主税として出演しておられますが、役柄についてのご感想は・・・

市川 非常に難しい役です。第一幾度も映画や芝居になっており、特に新生新派では“当り狂言”ですからね。どうしても他と比較されますからね。「婦系図」の科白にしろ何にしろ、余りにも人口に膾炙し、若い人でも知っていますからね。

−名作の映画化に伴う悩みというところですか。ところで、この役をこなすご抱負は・・・

市川 余りリアルであってもいけないと思いますので、様式美ということを念頭において、明治のムードを盛り上げるようにしたいと思います。演技の面でも一種の時代劇的要素を加えてやりたいと思っています。

−“明治は遠くになりにけり”ですか、「明治もの」は、あるいは時代劇のカテゴリーにぼつぼつ入れても良いかも知れませんで。ところで、この次は「破戒」の丑松役だそうですが・・・

市川 これも名作の映画化で、二度目ですね。

−そうですね。終戦後ですから十五年程前、池辺良さんの主演でしたね・・・

市川 私も小さい時、観た記憶がありますが、もうすっかり忘れました。

−それでは大いに期待して、封切をお待ちしますが、丑松の役柄については

市川 心理的な役で、むずかしいと思いますが、今までの「新平家物語」とか「炎上」と違って、非アクション的な役ですから、自分だけに理解できる演技ではなく、観客が共鳴してくれる心理描写を演じたいと思っています。つまり、丑松の心理を素直に訴えたいが、余り観念的にもならないように注意するといった努力をいたしたいと思います。

−話は一般的になりますが、役柄をこなすには、どんな準備というか心構えをされていますか。

市川 誰でもそうだと思いますが、大づかみなイメージを描いて、役柄を設定しますが、細々としたことはカメラ・ワークに任せています。

−まだお伺いしたいことは沢山ありますが、時間がありませんので・・・どうも有難うございました。

(三和銀行行内誌「さんわ」より)