かつらと雷蔵さん

 雷蔵さんのマネージャーの森本さんとは、古くからの知り合いだった関係もあって、「花の白虎隊」で初めて大映に出られた時に、森本さんから頼まれて、かつらを作ったのがキッカケで、それ以来五年間、雷蔵さんの仕事の場合、いつも私がかつらの方をやらしてもらっています。ですから、「花の白虎隊」以後、他社出演された「お夏清十郎」の一本だけを除いた六十本ばかりの仕事は全部私が受持ってきたわけです。

 最初の間は、雷蔵さんお顔に対して、どういったかつらを作れば似合うか、見当がつきませんでしたが、これだけやってくると近ごろではその長所短所もすっかりわかって来て、大変やりよくなりました。

 雷蔵さんについて、私の仕事の範囲内で一番感心するのは自分の顔をよく知っておられるということです。そして。一本一本新しい作品にかかるたびに、「今度はこうしてみよう。・・・こういう髪はどうだろう」と、私に相談されて、新しいかつらを作るのですが、それが出来上って、いつもピタッと顔に合うのですから、全く驚くばかりです。

「千羽鶴秘帖」 半次郎 「次郎長富士」 仁吉

 皆さんは、かつらといえば、例えば最近作で、「千羽鶴秘帖」の半次郎の頭と、「次郎長富士」の仁吉の頭と、同じように思われるでしょうが、それが同じタイプの「袋付きのイナセ」であっても、実物は全然ちがったイキで作られているのです。

 もう一つ、雷蔵さんの特徴とでもいうべきものは、侍の頭や殿様の頭(私たちの用語で「御家人」といっていますが)が、よく似合うことです。この頭は、同じ時代劇スターでも、なかなか顔に合いにくいものなのが、雷蔵さんの上品な顔によく似合うということは、何よりも強味でしょう。時代劇のプリンスというニックネームがあるのも、こういったところから来ているのかも知れません。(昭和34年7月20日発行「よ志哉」12号より)