大映映画『浮かれ三度笠』の雷蔵さん。右は本郷功次郎さん。

演技の上では沈思黙考型

川口: 何か歌のけいこもしていらっしゃるけど、当の先生さえあなたの歌をきいたことがないとかってきいたことがあるけど・・・(笑)

雷蔵: それはね。後援会で歌を歌うことになって、必要に迫られて、ジャズをやっている友達、今度小野道子さんと結婚する青山ヨシオですが、彼にジャズを三曲吹きこんでもらったんです。その曲のいろいろな上げ下げを聞いていたんだけど、後援会では歌わなかった。(笑)

川口: どうして?

雷蔵: 大体歌はきらいなんです、昔から。歌とか・・・お稽古でもそうですが、何べんもするのがきらいで。でも結局その間遊んでるわけじゃないんです。映画でも台本をうけとってからよく考えこむんです。人のを聞いていろいろなことを感じたり考えたりして・・・そして自分なりに表現するんです。

川口: こんどの踊りでもそうね。例えば六代目さんの鏡獅子はこうであったといって、そのまねをしていたのでは結局写生になってしまう。それを自分のものにして自分の個性を出すということが大切だと思って、ずっとやってきたから、あなたのお話はよくわかるわ。

記者: さっき運、不運というお話が出ましたが、人気というものをどういうふうに考えていらっしゃいますか?

雷蔵: そうですね。やっぱりどんな場合でも人気ということは重大なもんだと思うな。これがまた不思議なもので理屈で割り切れん。大へんいい演技者であっても、たとえば雑誌にしても、大へんいい内容のものでも売れないということがあるらしいから。(笑)

川口: 舞踊家でもやはり人気は大切ですけど・・・でも俳優さんでいえば演技派になると、人気がわかなくなることが多いんじゃないかしら。

雷蔵: なかなかそこのところの兼ね合いがむずかしいですね。つまりこんなことじゃないかな。演技派だとか芝居がうまいとか人に云われると自信過剰になって、押しつけがましくなることがある。そうすると見ている人は面白くない。雑誌にしても、おれのところの雑誌はこうだから、買いたければ買え、となると買う方じゃ面白くないからね。

川口: たしかにそういうことかもしれないわね。だけど、雷蔵さんってお話をきいていると何でも理論的に処理する性格らしいわね。

雷蔵: いいえ、それは仕事の上だけのことですよ。前の晩のおかずはあれだったから、きょうのおかずはこうしなければなんて云いませんよ。(笑)

川口: じゃ恋愛なんかも別なのね。

雷蔵: ええ、生活と仕事は切り離して考えたいと思っているんだけど・・・。