大映映画『初春狸御殿』の雷蔵さん。左は勝新太郎さん、中は若尾文子さん。

女はグズ?男は勝手

川口: よく青年の過渡期にあるけど、年上の人、いわゆるおばさまとの方が、同年輩の若い人より話しいいという時期ありました?

雷蔵: ありましたね。歌舞伎にいる頃、蓑助さんや富十郎さんの奥さん、そういう先輩の方の奥さんの方がしゃべりよかった。 

川口: それを過ぎたのならもう適齢期よ。 

雷蔵: もちろん、適齢期中の適齢です。(笑)二十八ですから。

川口: お父さま(市川寿海丈)やお母さまからお見合いのお話なんかはあるでしょ?

雷蔵: 僕の両親というのはまた変っていてね。もう七十三か四だけれども、大ていの親なら自分の方から孫の顔を見たいと云いそうなもんですが全然いわない。いや云わないというよりも、やっぱり来手がないんだ・・・。(笑)

川口: 云ってもどうせきかないから・・・。(笑)

雷蔵: そうでもないと思いますがね。見合も一つの経験やから。人生経験は豊富にしなきゃいかんですからね。どろぼうなんかの経験はあまりしない方がいいけれども・・・。(笑)

川口: わたし、思うに雷蔵さんの奥さんは第一条件が利口で利口が外へ出ちゃいけない。

記者: 妻を娶らば才たけて、才たけず。(笑)捜すのに大変ですね。

川口: それが判っているから、よさそうな人があっても私は推薦しないことにするわ。(笑)

雷蔵: そんなことありませんよ。いくら条件を並べたてても、結婚とか恋愛とかいうものは、そんなことに関係なく、お互いに好きになって、この人じゃなくてはという気持になるものじゃないですか。でも女の人ってほんとうはまだわかりませんよ。僕らは。

川口: まあやっぱり一応女の人で苦労しないと・・・。もちろん精神的にだけど。まだ苦労しないのでしょう。

雷蔵: 一ぺん失恋でもした方がいい、そうすれば女というもの、恋というものを知る、演技にもプラスになる。というんですがね。

川口: でも映画の中ではずい分女の人を知っているわけでしょう。映画を通して感じる女性ってどう?

雷蔵: そう・・・ぐずだな。(笑)しかしそれは、女の人には付属品が男より多いからしようがないけど・・・。

川口: 雷蔵さんってせっかちなのかしら。

雷蔵: せっかちのくせに落ちついているところもある。人ばかりせかすんです。(笑)そのくせ自分はじっと落ちついて考えていたり・・・。しかし待ち合わせても時間は守るし、割と待つ方ですよ。(笑)

川口: でもまさかぐずだけではないでしょう。雷蔵さんの女性観は・・・。(笑)かわいらしいと思うところはないのかしら?

雷蔵: そうですね。表面は何か強いことをいっている女の人が、ちょっとした時にもろいところ、女らしいところを見せる。そういうとき、何かいじらしいというか人間らしさがあっていいと思います。

記者: 川口さんは、男性をどうお思いになりますか。

川口: そうですね。実は私も年はいっているけど、まだほんとうはわかりませんね。わかったと錯覚していた時期もあったけど・・・。まあ大ざっぱに云って男性というものは・・・。

雷蔵: 勝手ですか。(笑)

川口: 勝手です。(笑)そりゃ今の子供さんが大きくなる頃は違うでしょうけど、私たちの時代、男性は最も勝手の代表的なものだったから・・・。

雷蔵: 武智先生は如何ですか。

川口: これは私自身勝手なことを云っているから、余りえらそうなことは云えません。

記者: 武智先生が最近某婦人雑誌(「結婚論」婦人公論58年4月号)に西村みゆきさんを弁護する手記を書いていられましたね。才子、才女を救うというか、相手の方を傷つけないように、しかも自分の立場をちゃんと書いてある。文章もうまいですね。(注:西村みゆきさんは「針のない時計」の盗作事件で問題になった。武智氏の前夫人。)

雷蔵: 昔から先生の文章は大へん鋭くて、切れがよくて・・・。しかし会うとおとなしい先生だな。訥弁で、演説なんか全然ぶてない方ですね。

川口: 何かとっても純粋に打ちこめる性格なんですね。

記者: その記事の中に川口先生とは二十年前から知っていたと書いてありましたが、初対面の時、何か運命的なものを感じられましたか。

川口: そんなにロマンチックじゃないですよ。(笑)あの事件の頃、ずいぶん方々の週刊誌なんかから、いろんな事をききにきましたけど、他人のしかも過ぎ去ったことなんか持ち出してもしょうがないと思いますけどね・・・。

記者: しかしあの記事の川口先生とのくだりなど拝見すると、武智先生は相当ロマンチックな方ですね。

川口: 編集部の注文で・・・。虫歯が浮くからやめてちょうだいと云ったんですけど・・・。(笑)ほんとうは決してそんなのじゃなくて、お互いがいろいろな線で共通したところのある事がわかって、何か二人で一緒に生活するのが自然なような気がして結婚したのですよ。芸術的に意見が合うとか、そんなものは全然ないのです。大たい私が古めかしいことを三十年来やっていますし、武智は反対に新しいことばかりやっているから合いっこないのです。それでも何か云いたいことを云いながらやっています。それがほんとうの夫婦じゃないかとおもうんですけどね。

記者: 結婚されて川口先生はおふとりになったとか、これも何かに出てましたね。

川口: ええ、それだけはほんとうに、いま最高にふとっているんです。十貫(1貫=3.75キログラム)切れなくなりましたから・・・。

雷蔵: でも平均してるじゃないですか。(笑)それでこえたら不恰好ですよ。(笑)

川口: そろそろお得意の毒舌が出たわね。(笑)ところで夫婦っていえば、あなたの御両親は評判の仲のいい御夫婦ですってね。

雷蔵: 私がみていても当てられるような夫婦ですね。お母さんは主人思いだし、お父さんはお母さんをいたわって、何でも云うことを聞くし・・・。

川口: お年より夫婦の仲がいいのってほんとうにいいものね。じゃ、将来の雷蔵さんの奥様もそういうふうであってほしいでしょう。

雷蔵: やはりそういうことはあるでしょうね。両親の生活態度というものは、子供に影響が大いにあると思いますよ。

川口: 雷蔵さんはどんなふうに親孝行するの?

雷蔵: 何もしないこと・・・。とりたてていうこともしないかわりに悪いこともせず、心配かけないということが一番親孝行だと思いますがね。父は今歌舞伎座へ出ていますから、このあとで行きます。

 西村みゆきの『針のない時計』が昭和34年9月に第2回・中央公論社・女流新人賞を授賞。『婦人公論』11月号にこの小説が掲載されたところ、発売翌日の10月8日、フォークナーの作品と同じ描写があると読者から中央公論社に電話にて告発があった。調べてみると西川正身・滝口直太郎共訳『サンクチュアリ』によく似ている部分が数カ所ある。当選は取消され、南部きみ子『流氷の街』が繰上げ当選した。(授賞作品リスト)

 西村は文芸春秋の元記者。しかも武智鉄二と略奪婚して半年で破局し、そのいきさつを手記に発表し話題になり、さらに新人賞を受賞した小説が盗作騒ぎを起こし、やがて消えていった。盗作とはいえ、純粋に敬愛する作品を無意識に使ってしまったもの(西村みゆきという人はフォークナーの文章を使ってしまったのだが、彼女がなまじ美人であった為にスキャンダル的に大きく扱われ、フォークナーを消化出来るほどの才能を持ちながらも消えていったという)。