特集★ケイバ人生

われにウマあり

“空想競馬”できたえた 

映画俳優・市川雷蔵

 雷蔵さんが永田大映社長にすすめられて、馬主になったのは五年前のことだ。一番初めの馬は売り、二番目は事故死して、いまの持馬は三、四番目のビレイゴ(四歳)とユーコン(三歳)の二頭。買値はいずれも四百万円。

 京都・淀競馬場にいるビレイゴはすでに五勝をあげ、四百五十万円の賞金を獲得し、四十三年四月に行われたクラシックレースの桜花賞に出場もした。

 この馬は「気性が荒く、神経質だが、スタート・ダッシュは抜群で、前半は常にトップを突っ走る。前半とばしすぎて逃げこみに失敗するケースが多いのが悩みのタネ。騎手も手綱をしぼるのに苦心している」という。

 これとは反対に阪神競馬場にいるユーコンはスロースターター。「まだ子どもで性質はおとなしいが、五百キロの巨体でスタミナは十分。レースに慣れるたびに実力を発揮するだろう」と馬主の雷蔵さんは期待している。

 仕事が忙しいので厩舎に足を運ぶのは月に二、三回。それだけに、たまの“対面”の日は朝からソワソワ。「馬はかわいい。自分の子のようでもあり、自分自身でもあるようだ」という。

 まだ莚蔵と名乗って関西歌舞伎にいた二十年前、中村鴈治郎さんに競馬の手ほどきをうけた。楽屋で毎日のように競馬の話、馬券の買い方を聞かされ、買わぬ競馬の勝馬予想を楽しむようになった。だんだん当るようになった。こうして空想競馬は十二年もつづき、すっかり自信をもって、はじめて本当に馬券を買ったのが昭和三十五年。京都淀競馬場だった。

 初めて目のあたりにした競馬。「馬の躍動美と緑の芝生。競馬はまさしくキング・オブ・スポーツだ」と感動した。それが病みつきになった。

奈良騎手から愛馬の調子を聞く雷蔵さん

「ビレイゴは女のくせに気が強くていかん。よろしくたのむよ」