たぶんお見合い結婚をする!?

 ところで、天下の花形スタアは裕次郎ひとりではない。裕次郎が日本へ舞い戻るより早く、マコならぬ
ママと同道で、アメリカから羽田へ飛び帰って来たサムライ・スタア、中村錦之助。
 そして、錦ちゃんよりもさらに14日ほど前、ハワイの一人旅から帰国して来た青年剣士、市川雷蔵。
雷蔵も錦之助も、今のところは天下周知の独身スタアだが、いずれ遠からず人生の伴侶をみつける日
はくるだろう。裕ちゃんの結婚問題をめぐって物情騒然?たる折から、錦ちゃん・雷ちゃんファンにとっ
ては、二人の独身ぶりがはなはだ気にかかるところ。そこでまず、二人の熱烈なる錦ちゃんファンに登
場をねがい、いつわらざる意見を披露してもらうことにしよう。
 − 裕ちゃんとマコのことをどう思う?との質問にたいしては
 「さあ、べつにどうとも思わない。私は錦ちゃん以外の俳優のことは気にしてないもの」(木野鈴子さん 丸の内F社のB・G)
 「裕ちゃんの人気はどうかしら。羽田へ出迎えたファンが意外に少なかったでしょ。錦ちゃんが帰って
 来たときとくらべてね・・・もっとも、裕ちゃんには後援会がないせいもあるでしょうけど・・・」(築城規子さん 四谷のM美容院で住み込み見習い)
 この二人は、中学校の同級生時代から錦ちゃんのファンで、現在ともに二十歳。中学生のころは錦
之助ファン・グループのリーダー格として、東千代之介一派に睨みをきかせた戦友の仲だそうだ。今も
勤めの余暇に誘いあわせては、同じ錦之助映画を何回も見るという信心ぶり。しかし、錦之助の結婚
に関しては
 「いいわ、錦ちゃんが好きな人となら、いつ誰と結婚したって」 口をそろえて冷静な返事だ。

 「中学時代の私だったら、きっとこんな気持になれなかっただろうけど・・・」

 「今は、あくまでスクリーンの上での錦ちゃんファンね。この気持は、錦ちゃんが死ぬまで変らない」
 「ひところ、ひばりちゃんとか大川恵子さんなどと、変な噂をたてられたでしょ。でも私はゴシップだと信じてたから、ジラシ
 ーなんか感じなかった」
 「錦ちゃんは、三十歳までに結婚するんじゃないかしら。いつか雑誌で、お母さまがそんなことをいってたし・・・」
 「あの人はお母さん孝行だから、たぶんお見合い結婚するでしょう」

 いたって素直な二人の口調からは“錦ちゃんの結婚阻止”の気構えはみじんも感じられなかったが・・・ここにいま一人、強硬な結婚反対論者が現われた。

 「錦ちゃんは、世界でただ一人の私の恋人よ。映画で見てても、錦ちゃんが斬られると、私まで死にそうに痛くなっちゃう。ラブ・シーンのときだって、私いつも相手役になりきっているのよ。その最中に、錦ちゃんの奥さんの顔なんかが浮んできたらゲンメツだわ」

 まるでもう、錦ちゃんを誰かにとられたような声をあげるのは、世田谷区の中学二年生、U子さんだ。(だめよ、だめよ、結婚しちゃあ。私の純粋な愛情が曇っちゃう!)

 机の前の壁に貼った錦ちゃんの全身写真にむかって、そんな願いを捧げ続けるU子さん。ところが一週間ほど前、腕白坊主の弟君に、危うくその写真を破られそうになってしまった。

 「錦ちゃんの写真が引き裂かれるのを見るくらいなら、私のからだがバラバラになったほうがいい」とまで思うU子さんは、あわてて写真を引越しさせた。今は、よる床の中で、天井からほほえみかける錦ちゃん像に向い(結婚しませんように、結婚しませんように)と祈り続けているそうだ。