“片想いブーム”の産物

 こうした意見は“人気製造会社”の内側からもおこっている。たとえば、大映の製作担当重役・松山英夫氏なども、

 「船越英二君と北林谷栄さんの主演賞獲得(毎日コンクールなどで)に拍手をおくりたい。二人とも、映画ファンからキャーキャーさわがれる俗にいう人気スタアではない。スタアから役者になるのもむずかしいが、役者からスタアになるのもむずかしい。役者として折紙をつけられた船越君と北林さんが、人気スタアになる日本の映画界でありたいと思う」(2月8日、毎日新聞)

 そんな意味のことを書いているが、中村錦之助や市川雷蔵などは、さしずめ“スタアから役者になった”ほうの代表選手格といえるだろうか。

 そして、写真は写真、スタアはスタア、世界にまたとない自分の“ペット”にむかい「錦ちゃん、結婚なんかしないで!」「雷蔵さん、ぜったいに結婚しちゃいやよ!」と叫ぶファンの声も、理屈を超えた強い力をもっているようだが・・・。

 最後に心理学者の望月衛氏(千葉大教授)は、最近の“スタア対ファン”の関係を、次のように解剖してみせる。

「要するに現代は、一種の“片想いブーム”さ。スタアとファンの関係は完全に遊離しているよ。スタアは、会社のハラ三寸で値段を上げ下げされる株のようなもので、ただマス・コミの片道交流で祭り上げられて思い上がっている者も多い。ひところの山田五十鈴のように、生活に密着した実力をもっているものが少ないんだな。

 そうしたスタアを相手に、自分の欲求不満をみたそうとするのがファンだ。時勢のおかげで、自分がたのしい結婚をする可能性が少ないだけに、いっそうスタアの結婚を気にするようになる。自分の幸福が少なければ少ないほど、他人のことにワーワー言いたがる道理だよ。今のファンは、自分の心をすっかりスタアにあずけちゃっている。なぜもっと確実なたのしみを建設しようとしないのだろう。

 スタアの側からいえば、人の目につかず、しかも演技力で長持ちすること、これがいちばん理想だろうね。そういう意味で、ぼくは裕次郎に同情しているよ」