主人公と企画 <対 談> 市川雷蔵 依田義賢
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『炎上』に出たこと |
依田: 雷蔵さん、今度『炎上』に出て、これは面白いと思われたことはありますか。
市川: 具体的にどれが面白いということはないけれど、最近ではたいへんにやりよかった方でしたね。
依田: ドラマの主人公という面でね。
市川: えゝ、えゝ。
依田: ずいぶん前にこの雑誌で、あなたが云っておられたけれど、時代劇の方は、イージーに類型化されてしまって人間というものがでていない。そういう不満を持っている時に、頭も刈って、素顔に近い感じで出たのは、チョンマゲをつけて出てるのとは、気持の上でも違うと思うのですよ。
市川: かえってやりよかったんじゃないかと思っているんですよ、頭を刈ったり素顔で出たりしたことが。
依田: 監督は市川崑氏だし、三島由紀夫氏の原作のものだし、だから、ただチョンマゲを脱いだということだけではなしに、野心的に燃えられる条件にあったわけですし、あなたもそういうふうにおやりになったことでしょうがね。
市川: 野心的なんですよ、一年前からやろうと思っていたものですから。監督さんもやろうと思ってたし、僕も出ようと思っていたし、それが一年間、都合でやれなかったんです。僕としては、一年間やろうと思っていて、やることの出来たのは今回が初めてなわけなんですよ。たいへん野心的なんだけど、それがさてお芝居をした場合に、野心に凝りかたまって熱演型にならないようにということが、気持の上でいちばん整理したことなんです。今度ごらんになっていただいたらわかると思うんですが、僕としては何もしないで、フラットとでもいうんですか・・・。一年間に野心とか情熱は僕の中で消化してしまったんですね。それが幸いしたかもわかりません。そういうことが主人公の性格なり要求された演技にうまくマッチしたと思いますけどね。
依田: 主人公をあなたが感覚的にキャッチされた面が、時代劇とはまるで違う、と。
市川: そういうわけですね。
依田: そのまるで違うということは、はじめからきめていたことなんですか。
市川: そうですねぇ。いまやっている時代劇のお芝居と、今度の『炎上』のお芝居とはぜんぜん違うというやり方をしましたね。『炎上』を撮影している時、たまたま『人肌孔雀』とが並行撮影で、つまり、かけもちをやっていましたから、それはよくわかったわけですけどね。