主人公と企画

<対 談> 市川雷蔵 依田義賢

 

企画を打ち出す難しさと重要性

依田: 各社を通じての傾向ですが、経営の合理化ということ、これはいつの時代でもありましたよ。でも、冒険をして、ま云えば文化的向上ということも含めた冒険をしてきたわけなんですよ。でも今の冒険というのはそういうのでなしに、ある種の合理的な計算にたった対策があって、それに更に消却する商作品が作られる。つまり、何本かの作品の犠牲を見こしてしか冒険が考えられないというのが顕著な状況ですね。それはスターにもしわよせされていくんですけど、あなた自身の意欲とか問題じゃなくて、市川雷蔵を、既存の人気とかをもったタレントとして入れてしまう。何も創作しようという意欲が企画の中にない。今はそれでいいでしょう。しかし、お互いに、シナリオライターも演技者もそうですけど、マスコミに抹殺されるような状況じゃ困る。ということで、発言しなくてはいかんのじゃないかと思うんですよね。それが今まではゴテルという形しかないわけですよ。それじゃいけないんで、話の内容とか、それが与える影響とか、それに参画する意義とかを考えた、まいえば、非常に純情な企画というものができるように僕たちが考えないかんのとちがいますか。

市川: そうでしょうねえ。ま、幸いなことに、今時代劇をやっている若い人たち、錦之助君や橋蔵君とは、歌舞伎時代にお友達であった関係もあるし、映画界に入っても仕事の上ではお互いに競いあってはいるけれども、私生活の上ではみんな仲はいいんですよ。これだけでも僕は違うと思うんです。だからね、今はまだ僕らも若いし、映画にきて五年にもならないんだけれども、もう一、二年すれば、今までにはなかったこの交わりというのがあるんだから、一人や二人では、せいぜいこういう席上で不平不満をぶちまけるだけで実行に移し得ない状態ですからね。何とかみんなが集まってやっていきたいことは、会社では見出せないものを、僕たち自身で見出して作っていくということなんですよ。

依田: それはいいことですね。そういうことにでもならないとしょうがないよ。じゃこのへんで。(八月十四日 於れんこんや)

註: 『炎上』は八月十九日に公開された

(時代映画58年9月号より)