君は十分完成されてるヨ
雷蔵 君、そこがいいとこや、気にするところ。あなたはもう完成されてるよ。
橋蔵 まだまだ変るよ、変らなくちゃ困るよ。だけど、雷ちゃんはサ、五年経っても十年経っても、いくら年をとっても、精神の行動派という点では、変らんだろうな。
雷蔵 分ったような、分らんような話やな(笑)
橋蔵 いやいや(笑)
雷蔵 この間、どっかの新聞でお互いに人物評をし合うのやったね
橋蔵 うんうん。僕はその時でも雷ちゃん、実にいいこと言ってくれるなと思った。お世辞とか飾るところがないから、言われる側は実に嬉しいんだ。前から自分では分っていたことだけど、なにかビシッとピッタリだった。
雷蔵 どんなこと言ったか、もう忘れちゃったヨ(笑)。
橋蔵 人物評みたいの、同業者のは必ず見てる。同じ仕事してると相手を見る目が同じだから。・・・
雷蔵 本当にそうや。言われっぱなしじゃ能がないから、今度は僕の番や。まず君の長所はやね、円満さと丸さだよ、冒険心とかなんか言ったって、結局は性格なんだから、変える必要ないよ。
橋蔵 それはそうなんだけど。例えばね、箸がある、置き方なんかどうでもいいんだ。(とゼスチャア)食べたいものがあったらそれを食べる、食べ方とか作法なんかどうでもいい。そういう合理的な考え方にひかれるの。
雷蔵 そんなに合理的じゃないよ・・・。だけど、君、むやみに羨ましがるね。
橋蔵 違うんだ。雷ちゃんに限らず、そんなオープンな、時代に叶った生き方をしたいということ・・・一般的にさ。
雷蔵 ああ、ややこしい、頭が痛うなる。
橋蔵 面白いなア!会ってると実に面白い。羨ましい!
雷蔵 君には似合わんぞ・
橋蔵 君と会ってると、楽しくなるんだ。
雷蔵 うん、あんたと会ってると話やすくなる。抱擁力のせいやろな。
橋蔵 どんな話でも、どんなこと言われても平気やもん。
雷蔵 昔から、そうやったな。だけどね、抱擁力のある人ってのはちょっとコワいところもあるってこというぜ。(笑)
橋蔵 それ、どういう意味?
雷蔵 分らん(笑)。
橋蔵 ズルイ、ズルイ。
雷蔵 人間が練れてるし、大人だから、君は上に立つ、つまり、社長になれる素質があるよ、僕はせいぜい工場長ぐらいが関の山だ(笑)。
橋蔵 そりゃそうサ、僕はつねに社長的立場から、ものを考えてるだぜ、だって、名前も大川っていうくらいだから(笑)。雷ちゃん、工場長だなんて、口ではチャランポランのこと言ってるけど、根本の土性骨が、ちゃんと一本あるからな。
雷蔵 また、それを言う(笑)。シンの太さは絶対に君や、ただ、あらわれ方が違うんや。
橋蔵 話題を変えましょう(笑)ええとネ。・・・
雷蔵 おいおい、まだ結論はでんぜ。(笑)
外国行きはダメだけど
橋蔵 でなくてもいいよ(笑)ところで雷ちゃん、年間三本は自分の企画がやれるんだってね。
雷蔵 まアね。・・・会社の線と合うものならばだけど、“好色一代男”と、山崎豊子さんの“ぼんち”は決まった。
橋蔵 僕も企画出してあるけど、結局、実現するのは甘いものが多くなっちゃう。・・・
雷蔵 うん、うん。会社のカラーやからなァ。それとね、山本周五郎の“町奉行日記”。立廻りがなくて、男と男の談合だけで話が進む、アレ。
橋蔵 読んだよ。いいなア、人間的な情が深いし・・・。つまり、タッチがリアルなんだな。それより外国行きはどうなった?
雷蔵 去年と大映の情勢も変ってきたからね、今年は行ってられないよ。君、今度の仕事はなに?
橋蔵 お盆ものでね、“水戸黄門”をまた演るの、役は伊之吉っていう隠密の板前。今までと違った性格のものだよ。
雷蔵 フーン!(笑)
橋蔵 変な笑い方するなよ(笑)これは面白いんだ!
雷蔵 ホーウ(笑)。
橋蔵 乞う、ご期待!
雷蔵 楽しみしているよ。
(映画ファン59年8月号より)