ふたりは天の邪鬼?

雷蔵: それもオツやで(笑)だけど、いつ頃からかいな、錦ちゃんと仲よくなったの。

錦之助: 初めて逢ったのは、大阪だよ。

雷蔵: そうやな、たしかな、十七歳の頃や思うんだけど思い出せへんのだよ。

錦之助: 大阪の歌舞伎座で・・・

雷蔵: お父さんと出て来た時なんや。二ヶ月目にはじめて口をきいたのがキッカケやなかったか・・・?

錦之助: たぶんそうだよ、二人とも天の邪鬼だからね、なれなれしくなかったんだ。

雷蔵: それがよかったんや、どうもね、初対面から慣れ慣れしいっていうのはな、ぼくは好かん・・・。

錦之助: 雷ちゃんもいいところあるなあ。

雷蔵: お、やっと誉めてくれはったわ(笑)

錦之助: ところで、雷ちゃん、その頭いつ毛が伸びるんだい?(笑)

雷蔵: もうだいぶ伸びて来たんやけどな、大映は坊主アタマが流行ってんや、長谷川一夫先生が日蓮でそうだし、しかしな、これ夏はいいで、涼しいから冷房装置持って歩いてるようなもんや・・・(笑)

錦之助: ぐっと若くなったよ、そのアタマで・・・。

雷蔵: やっぱり君はぼくより一枚上や。

錦之助: 何がさ。

雷蔵: 役者がや。

錦之助: それ誉めてんのか、けなしてるのかね(笑)

雷蔵: いや、ホントの意味の役者ってことやで・・・なんか、こう話していてもな、君は風格が出て来ているんや、俳優としての熱もあるし、歯切れのよさは一番やろな、ほんまにそう思うとるよ。

錦之助: こいつは弱っちゃったな(笑)雷ちゃん、もうそろそろ、ロケーションに発つ時間じゃないのかな(笑)

雷蔵: 残念やな、まだ時間がある(笑)

錦之助: 雷ちゃん、ロケは好き?

雷蔵: それがあかんのや、ほんまはなロケーションて大嫌いなんや。

錦之助: ぼくもね、ロケ地に飛行機で行けなんて、急ぎの時があるだろう、キライだね。

雷蔵: どういうのかな、なんだかロケーションだとね、しばいしてても気分が出ないんで困るなあ、これ舞台から来てるせいかも知れんで・・・。

錦之助: ぼくはロケのために飛行機のることがあるんでキライだね(笑)この間もね、全日空の飛行機落ちたろう、あの直後に四国に行ったんだ、野球の試合でさ、そうしたら笑っちゃったんだ、大川社長がとんで来てね、パーティの席でいうんだね、この際だから俳優諸君は一機の飛行機にのらず分散して四国に行って欲しい(笑)

雷蔵: アハハハ・・・それはオモロカったな。

錦之助: とんでもない、社長も、とくにぼくなんか感激して聞きましたヨ(笑)

雷蔵: ね、錦ちゃん、いまぼくがやりたいものがあるんだけどね。

錦之助: どんなもの?

雷蔵: それがね、ふたつあるんやけどね、錦ちゃんとふたりだとなおいいんだな。ひとつは時代スリラーで、ひとつは弥次喜多的なもんや。

錦之助: やりたいね、いつか話をしたっけね、実現は出来ないが独立プロを作ったらおもしろいってね、で、どんなの?そのふたつって・・・

雷蔵: 松本清張の「甲府在藩」というのがあるんや、スリラーでね、黄金埋蔵をめぐってのものなんだ。

錦之助: もうひとつは何?

雷蔵: またこれがオモロイ(笑)黙阿弥のもので「四千両なんとか」いうんだが、ひとりは江戸の遊人、ひとりは関西の御家人つまり侍やな、このふたりが京都に来てまきおこすユーモラスな話なんや。

錦之助: じゃぁ、ぼくが江戸っ子の遊人で・・・

雷蔵: そやそや、ぼくが御家人になってさ、江戸っ子と関西っ子の対照で・・・。

錦之助: ふたり生地のままいけるじゃないの。

雷蔵: だからや、どうや、ちょいとやりたいやろ。

錦之助: 会社がおんなしならね(笑)

雷蔵: というわけでやね、こういう話は夢物語り(笑)

錦之助: エー、映画一巻の終りでござーい(笑)

雷蔵: さあ、じゃあこの辺で出かけるわ。

錦之助: ぼくのセットもう始まるけど、ちょっと見て行かないかな(と、立ち上がる)

雷蔵: (それを眺めて)ふーん、やっぱり錦之助貫禄がついたわ(笑)

と、いうわけで、雷蔵さんは錦ちゃんの誘いに応じて、「じゃあ、ちょっとのぞいてみようか」と、立ち上がるのでした。

時に夕刻の六時半をまわり、すでに外は夜の墨一色という東映京都撮影所です。

錦ちゃんは、ちょうど東千代介さんとの「隠密七生記」に出演中で、その撮影現場は第十一スタジオです。

「やあ、いらっしゃい!」

低い、バスの声がして、ふと見ると演出中の松田定次監督が笑顔で雷蔵さんを迎えてくれます。

広いステージの真ん中に、大きなお城の屋根が出来ていて、まぶしいばかりに金色に輝いたシャチホコがライトに照らされて、まず我々の眼を射ます。

「じゃあ雷ちゃん、ちょっと行ってくるよ」

錦ちゃんはそういって、屋根にかけ上がり、キャメラの前に立つのでした。

シーンは、ぐっと前方をにらんでハッタと見得を切るところで、なかなか颯爽とした錦ちゃんです。

「錦ちゃんて、ホントウにしばいが上手くなって来た」

セットを見学中の雷ちゃんがポツンと嘆声を洩らすのでした。友情がみなぎる一日でした。

(平凡臨時増刊「あなたの錦之助」昭和33年11月15日発行より)

「あなたの市川雷蔵」(昭和34年1月10日発行)に、錦ちゃん筆-わが友・雷蔵クン行状記-があるのを見て、ゼッタイ「あなたの錦之助」に雷蔵さんの記事か筆があるとニランだみわは、手頃な値段の「あなたの錦之助」を入手すべく努力した結果、「ザックバラン対談」となりました。でも、憎むべきは五社協定・・・諸悪の根源!!見たかった錦ちゃん賀津雄ちゃんの殿様弥次喜多と一味違う、雷ちゃん錦ちゃんの弥次喜多ものを・・・