昭和42年度キネマ旬報賞

男優賞

あなたは昭和二十九年関西歌舞伎界から映画入りして以来真摯な精進によって時代劇現代劇の両分野に独自な個性を発揮、つねに新しい役柄を開拓してこられました。すでに昭和三十三年度「炎上」の成果によってキネマ旬報男優賞をうけられましたが、本年度「華岡青洲の妻」の堂々たる先覚的医学者の滋味あふれる演技および「ある殺し屋」の陰影の濃い現代人の心理表現はまた格段の成果を示され特筆に価するものがあります。

よって本年度キネマ旬報賞をおくって表彰いたします。

昭和四十三年一月三十日

キネマ旬報社 社長 大橋 重勇

 

1967年度キネマ旬報賞

わたしの選んだ男優賞 その選出理由

荒田 正男(映画評論家)男優賞は「華岡青洲の妻」における演技。

飯田 心美(映画評論家):市川雷蔵は「華岡青洲の妻」と「ある殺し屋」における好演を買う。前者における役では仕どころのないのが気の毒だったが、とにかく女二人のあいだに立つ受役をよくやっていた。役どころの面白さはむしろ後者にあり表面堅気を装う殺し屋の不気味さを出していた。

小菅 春生(映画評論家):「華岡青洲の妻」。セリフ(エロキューション)のよさ、格調の高さが生み出した凛とした芸の味。

小林 勝(映画評論家):主演賞は男女ともに仲よく「華岡青洲の妻」から選んでみた。男優賞はほかに心当りがない。

杉山 静夫(映画評論家):特に傑出した男優は思い当らないが、「華岡青洲」と「ある殺し屋」と、いくつかの「眠狂四郎」の雷蔵はやはりピカ一であろう。

田中 純一郎(映画評論家):男優の中山仁その他新人の目ぼしいものをと探したが未だ力倆たらず「ある殺し屋」「中野学校」その他のシリーズでベース・アップした雷蔵におちつく。

戸田 隆雄(映画評論家):市川雷蔵は「華岡青洲の妻」で、この俳優としては新しい境地の演技だと思いました。

外村 完二(映画評論家):市川雷蔵、今年は特にこれという決定的な好演を示した俳優がなく、一長一短のそしりを免れないひとが多いが、この人は、長く娯楽番組に登場していたにもかかわらず、そのあかのあとを示さず、以外に新鮮で、淡々たる演技のなかに、医業にうちこむ情熱と、そのううらに秘められた男のエゴイズムをみごとに再現したのだ、今後の精進をいのる、といった意味で推したい。

村上 忠久(映画評論家):市川雷蔵の「ある殺し屋」「華岡青洲の妻」の好演を推したい。

森 満二郎(映画評論家):「華岡青洲の妻」「ある殺し屋」「眠狂四郎もの」と熟成して好調の波にのっているように思える市川雷蔵を推します。