昭和33年度キネマ旬報賞

男優賞

 あなたは昭和二十九年関西歌舞伎から映画界に入り伝統的な舞台で習得された演技を生かしつつ端麗な個性に真摯な精進を加えてよく日本映画時代劇に新しい役柄を開拓して来られました。とくに昭和三十三年度においては初の現代劇である炎上に主役を演じ今日の複雑な青年像を繊細な映画的演技によって従来の二枚目型をさらに豊かなものとしたことはすべての若い演技者に貴重な教訓を与えるものとして特筆すべき功績であります。

 よって本年度キネマ旬報男優賞を贈って表彰するとともに今後の輝しい成果に期待してやみません。

昭和三十四年一月三十日

キネマ旬報社 社長 大橋 重男

雷蔵さんは一番右端

 受賞者の最後を飾って男優賞の市川雷蔵氏。前方に陣取った女性陣がひときわどよめいた。が、さすがに黄色い声を上げる者はいない。緊張してしまったのかもしれない。歌舞伎出身者らしく、いかにもメリハリのきいた口調で「どうしても演りたいと思っていた『炎上』に出演でき、その上賞までいただいたのですから、これ以上の喜びはありません。これを機に一層頑張りたいと思います」と述べた。(昭和三十四年三月一日発行キネマ旬報より)